うつつ
UTUTU

2002/03/19 メディアボックス試写室
「あなたの奥さん、私の夫と浮気してます」という一言から崩壊する人生。
話はすごく面白いのに、料理の仕方が悪かった。by K. Hattori

 もっとも身近にいて、もっとも信用のできない他人。それが夫婦というものかもしれない。子供のいない夫婦に至っては、「子育て」という夫婦共通の目的すら存在しない。「愛情」という目に見えない、したがって誰にも論証不可能な絆だけで、共同生活を維持させているだけではないのか。役所に婚姻届を出しさえすれば、相手が自分を裏切らないと本気で考えている人が、この世の中には多すぎる。地雷原の上で、そうと知らずにピクニックをしているような結婚生活は多いだろう。地雷が爆発しないことは、そこに地雷が存在しないことの証明にはならない。運のよさと安全とは別問題だ。

 この映画の主人公・池島隆一は、結婚以来7年間、妻とふたりの生活に何の不満も不安も感じたことはなかった。だがある雨の夜、駅前で彼にカサを差しだした美しい女が、彼に向かってただならぬ事を囁いた。「あなたの奥さんは私の夫と浮気してます。あんまり悔しいから、夫に復讐するため私も同じ事をしてやろうって決めたんです」。小原幾子(ちかこ)と名乗る女は、自分の言葉が嘘だと思うなら、箱根のホテルに電話してみればいいと隆一に詰め寄る。だが彼にその勇気はない。女の言葉はどうも本当らしく思えるのだ。自分がそれまで信じていたものが、目の前で崩壊していく。隆一は誘われるままに、幾子を抱いてしまうのだが……。

 主人公の池島隆一を演じるのは佐藤浩市。謎めいた女・幾子を演じるのは宮沢りえ。隆一の妻・公美子を大塚寧々が演じている。原作は連城三紀彦の短編「夜の右側」で、脚色・監督は映画『C〈コンビニエンス〉・ジャック』の当摩寿史。この映画、話は面白いと思うのだが、その組み立てや演出に難があって、特に後半は見る見るうちに緊張感がなくなっていってしまう。同じ話でも、描き方によってはもっと面白くなったと思う。

 何の問題もなかった結婚生活が、見ず知らずの第三者が介入することによって瞬時に崩壊していく話です。主人公は結婚生活が「地雷原でのピクニック」であることに、ある日突然気づいてしまう。主人公が結婚生活に対して抱いていた「安全神話」は消滅し、結婚生活は静かな戦場へと姿を変えるのだ。だがこの映画は主人公たちの結婚生活を、最初から「絵空事」のように薄っぺらなものとして描く。四角いフレームで切り取られたリビングルーム。子供のいないままごと遊びのような暮らし。映画を観ていると、なるほどこんな生活感のない結婚なら、見ず知らずの他人からの讒言でもすぐに壊れてしまいそうだと思う。だがこれは、話の本来の趣旨と違うのではないだろうか。主人公の夫婦関係が誰にも疑いようのないものであるからこそ、それが崩壊していくプロセスが大きな悲劇になり得るのだと思うけど……。

 この映画は一種のミステリー仕立てになっているわけだが、謎の提示や種明かしのプロセスがだいぶ弱い。同じような話で、『フォロウィング』を観た後だったから余計にそう思ってしまったのかもしれない。

2002年6月1日公開予定 シネ・リーブル池袋他・全国
配給:日活 宣伝:スキップ

(上映時間:1時間40分)

ホームページ:http://www.ututu.com/

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原作:美女(集英社文庫)
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