アトランティスのこころ

2002/03/19 ワーナー試写室
スティーヴン・キングの同名小説をスコット・ヒックス監督が映画化。
キング流の「不思議な話」をもっと強調して欲しい。by K. Hattori

 スティーヴン・キングの同名小説を『ミザリー』のウィリアム・ゴールドマンが脚色し、『シャイン』のスコット・ヒックスが監督したファンタジックでノスタルジックなヒューマンドラマ。物語の傾向としては『スタンド・バイ・ミー』と『グリーン・マイル』を足して2で割ったような感じ。幼馴染みの友だちが死んだという知らせを受けて故郷の町に戻った中年の写真家ボビー・ガーフィールドは、そこでもうひとりの幼友達キャロルも数年前に亡くなったと知らされて大きな衝撃を受ける。故郷の町を離れて数十年。その町に戻りさえすれば、いつだって昔通りの町並みや友だちが自分を迎え入れてくれるような気がしていたのに、通り過ぎた日々は二度と戻ってくることがない。ボビーは自分がその町で過ごした、最後の夏を思い出す。11歳の誕生日を迎えた日、彼の前に現れたテッド老人のことを……。

 この映画にはキングならではのスーパーナチュラルなモチーフが扱われている。テッド老人が持つ不思議な能力。老人を追いかける不気味な黒い影。冷戦時代の政府の陰謀。しかしこうしたB級SFスリラーのような要素は、この映画の中で脇に追いやられる。かわりに物語の中央に躍り出るのは、11歳の少年ボビーと近所の幼馴染みキャロルの間に芽生えた淡い恋愛感情だ。『ヒマラヤ杉に降る雪』でも10代のカップルの恋愛を瑞々しく描いたヒックス監督は、この映画でも主人公たちが経験する幼い恋の初々しい輝きを丁寧に描写していく。こうした「幼い恋心」のエピソードと、B級SFスリラーである超能力ネタを結びつけるのが、名優アンソニー・ホプキンスにテッド老人を演じさせるというキャスティングなのだろう。老人の持つ超能力は、この映画の中ではごく控えめにしか描かれないが、ホプキンスの存在感がその「控えめな能力」に確かなカリスマ性を与える。

 おそらく『グリーン・マイル』のフランク・ダラボン監督なら、テッド老人の超能力をもっと印象的なシーンとして描き、観客の気持ちをわしづかみにするだろう。しかしこの映画の狙いは、『グリーン・マイル』のようなスーパーナチュラル・ストーリーではなく、『スタンド・バイ・ミー』と同系統の少年少女の友情物語らしい。それはそれでスコット・ヒックス監督の資質に合っていると思うし、現にこの映画に登場する子供たちは素晴らしく印象的な芝居をする。しかしだからといって、この物語からスーパーナチュラルな要素が一掃できるはずはないから、この映画は少々ヘンテコなことになってしまうのだ。この話はやはり「テッド老人」こそが中心にならないと、この夏がなぜボビーにとってことさら特別な思い出になっているのかがわからなくなってしまう。

 その夏ボビーとテッド老人は、政府の諜報機関が狙う「不思議な能力」を共有し合ったのです。ふたりは他の人にはうかがえない、強い絆で結びついていた。ボビーは老人の中に、自分の父親の姿を投影する。そこがこの映画では、切実なものとして伝わってこないのが残念。

(原題:Hearts in Atlantis)

2002年5月中旬公開予定 丸の内ピカデリー2他・全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画 宣伝:レオ・エンタープライズ

(上映時間:1時間41分)

ホームページ:http://www.heartsinatlantis.net/

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原作:アトランティスのこころ
洋書:Hearts in Atlantis
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