弘兼憲史シネマ劇場「黄昏流星群」
星のレストラン
2002/03/14 イマジカ第2試写室
弘兼憲治の人気コミックをハイビジョン映画として映像化。
脚本は原作にひと工夫して成功。料理も美味そうだ。by K. Hattori
ビッグコミックオリジナルに連載されている弘兼憲史の「黄昏流星群」は、欧米の映画やドラマでは当たり前でも日本ではなかなか成立しにくかった中高年男女の恋愛模様を、巧みに日本の風景に持ち込んだ意欲的コミックだ。毎回4〜5回の連載で1つのエピソードを構成するというのも、ちょうど1時間か1時間半のドラマや映画に相当するボリューム感。その中から選りすぐりの2話を選んで映画化したうちの1本が、富岡忠文監督・脚本の『星のレストラン』だ。僕は連載中にも原作を読んでいたが、この映画版は原作以上のできだった。
青山のフレンチレストランで働く片岡ヒロミは、いつかフランスに渡って本場のフランス料理店で修行したいという野心を持つ青年だ。だが金もコネもない彼に、そんなチャンスはなかなか巡ってくるものではない。ある日恋人と出かけたコンビニで、彼はひとりのしょぼくれた老人に出会う。老人を部屋に招待したヒロミは自分の作った自慢の料理を彼に振る舞うが、老人はその欠点を鋭く指摘してヒロミに衝撃を与える。老人の名前は立松一平。安アパートでひとり住まいをし、ビル清掃の仕事で細々と暮らしている彼は、かつてフランス料理界で天才の名をほしいままにした伝説のシェフだったのだ。
ヒロミを演じるのは鳥羽潤。伝説のシェフ立松一平を演じるのは石橋蓮司。映画の筋立ては原作とほぼ同じだが、立松老人の生活や行動をより深く掘り下げて、この男の青春期のドラマ、その後の葛藤、現在まで続く苦悩などを細かく描写していく。原作はどちらかというとヒロミの視点が中心で、立松老人は彼に幸運を運んでくる都合のいい人物に見えなくもない。かつて起きた事故が原因で料理を捨てたというわりには、ヒロミの前で自慢げに料理の腕を疲労したり、料理の知識をひけらかして見せたりする嫌味なジイサマだ。映画はこの立松老人の人物造形を一新し、世間から一歩距離を置いた場所に立つ老人が、ひとりの才能ある青年と出会うことで自分の中に眠る情熱を呼び覚まし、おずおずと料理の世界に戻っていく姿を丁寧に描いている。いつも通りコンビニで弁当を買おうとしていた老人が、ふと思い立ってスーパーの食品売り場で材料を買いそろえ、久しぶりにシチューを作る場面がいい。老人がシチューを作るエピソードは原作にもあるが、映画に登場するシチューは彼が自分自身のために作ったものである点が大きく異なる。
映画がもう1点原作よりはるかに優れているのは、物語に出てくる料理やその調理法が、シズル感たっぷりにカラーで描けることだろう。登場する料理は原作と同じだが、僕は原作を読んでもこの料理が美味しそうだとは少しも思わなかった。でもこの映画の料理は違う。子羊のロースト、ビーフシチュー、舌平目のロール、エビの入ったニンジンのテリーヌなど、どれを取っても美味しそうだ。ハイビジョン撮影の明るい画面が、料理をより一層美味しそうに見せているのかもしれない。お話云々より、この料理のために今回はこの話が選ばれたのかも。
2002年5月18日公開予定 シネマメディアージュ他・全国公開
配給:日本ビクター 宣伝:Kプレス
(上映時間:1時間39分)
ホームページ:http://www.jvc-victor.co.jp/movie/tasogare/
DVD:星のレストラン
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