ドッグ・スター

2002/02/28 映画美学校第2試写室
年老いた盲導犬が人間に姿を変えてかつての飼い主に会いに行く。
テーマが不明快でドラマがイマイチ盛り上がらない。by K. Hattori

 盲導犬のシローは、犬としては老齢の12歳。元ボクサーのゴングはいい飼い主だったが、ある晩、無謀運転のトラックにはねられて彼は死に、傷ついたシローだけが生き延びた。盲導犬訓練所でしょんぼりと余生を送ることになったシローのもとに、幽霊になったゴングが現れる。「地上でひとつ良いことをしないと俺は天国に入れない。だから世話になったお前の願いを、何でもひとつだけ叶えてやるよ」。シローの願いは、幼犬の頃に育ててくれた一家にもう一度会うことだった。でも老いぼれ犬の姿は嫌だ。できれば人間の姿になりたい。ゴングは近所で自殺した男の体を借りて、シローの願いを叶えてやる。だがシローがもとの飼い主の家に行ってみると、その家はもう長いこと空き家になっていた。近所の人の話によると、その家の住人は10年ほど前に飛行機事故に遭い、娘ひとりを残して全員が死んでしまったという。シローは生き残った娘ハルカを探し、とうとう今は幼稚園の先生になった彼女を探し当てる。

 シローを演じているのは豊川悦司。ハルカを演じているのは井川遥。監督・脚本は『HISTERIC』『RUSH!』の瀬々敬久。犬が人間に変身して、美しい女性との間に恋愛感情めいた心の交流が生まれるというファンタジーで、主演ふたりの他にも石橋凌や泉谷しげるが出演するなど、配役もこのクラスの映画にしては豪華なものかもしれない。ただしこの映画は何がねらい所なのか、僕にはさっぱりわからなかった。これは異色のラブストーリーだろうか。それとも老犬の最後の願いを通して、「死」というものについて描こうとした作品だろうか。死んだ男たちがそのままの姿でシローの前に現れ、生きていた時と同じ口調で語りかけてくるというシーンを観ると、この映画が何らかの形で「死」について語ろうとしていることは予想がつく。ところがこの映画はその「死」を、どのようなものとして描こうとしているのか。それがよくわからない。映画の中で「死」は必ずしもネガティブなものとして描かれてはいないが、さりとてポジティブな価値が与えられているわけでもない。シロー自身の死、ゴングの死、移動動物園の経営者・東海の死、そして直接は描かれないハルカの家族の死。多くの死を描きながら、この映画はそれをどう語ろうとしているのか。

 女性に無償の愛を注ぐ無垢な男と、心に深い傷を負った女の組み合わせに、動物を使って少々変わった商売をしている中年男の組み合わせは、森淳一監督が窪塚洋介主演で作った『Laundry』という映画と同じだ。でも映画の輪郭が明快な『Laundry』に比べて、『ドッグ・スター』はやけにボンヤリした印象しか残らない。これは映画を観ている時に眠かったとか、そういうレベルの問題とはちょっと別次元の話なのだ。犬が人間になるのは構わないけれど、豊川悦司が自転車のサドルの匂いを嗅いでも、別に犬には見えないよ。ちなみに僕が今まで観た映画の中で一番「これは犬だ!」と思った役者は、『瞼の母』の中村錦之助でしたけどね……。

2002年4月27日公開予定 テアトルタイムズスクエア
配給:東京テアトル、オメガ・ミコット 宣伝:メディアボックス

(上映時間:2時間5分)

ホームページ:http://www.dog-star.jp/

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