ピンク・フロイド
ザ・ウォール

2002/02/19 映画美学校第2試写室
ピンク・フロイドの同名アルバムをアラン・パーカーが映画化。
ひとりの男の心象風景を幻想的に映像化。by K. Hattori

 '79年に発表されたピンク・フロイドの2枚組大作アルバム「ザ・ウォール」をモチーフに、'82年にアラン・パーカーが監督した1時間35分の映像スペクタクル。脚本はピンク・フロイドの創設メンバーでもあるロジャー・ウォーターズで、劇中の音楽は彼とピンク・フロイドが担当している。「ザ・ウォール」はアルバム発売の翌年からコンサート・ツアーが行われ、そこではステージと客席の間に次々とブロックを積み上げ、最後にそれを突き崩すというパフォーマンスが行われたらしい。こうした演劇的なステージ演出の延長上に、映画『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』が存在するのだろう。ステージで上映されたジェラルド・スカーフのアニメーションは、そのまま映画にも引き継がれている。(まったく同じものかどうかは不明。)コンサートは再現性がないけれど、映画はいつまでも残る。ちなみにこの映画は既にDVD化されており、そこではコンサートがらみのエピソードや映像も特典として収録されいるようだ。

 この映画は「ピンク・フロイド」という架空のミュージシャンの半生記を描く、一種のミュージカル映画だ。そこにはロジャー・ウォーターズの個人的な体験が反映されているらしいが、戦争で父を失い、母子家庭で育てられた孤独な少年時代。いつしかイマジネーションの世界に自分の居場所を見つけたピンクだったが、個性的な生徒は異分子として学校で教師にいびられる。若くして結婚した彼が売れっ子のロックスターとして世界中を飛び回るようになると、妻との溝は深まり、やがて結婚生活は破綻する。ツアー先でホテルの部屋をメチャメチャに破壊し、心に壁を作って自分ひとりの世界に閉じこもってしまったピンク。だが注射1本で無理矢理ステージにたたされた彼は、突然ナチス風のコスチュームに身を固めて独裁者のように振る舞いはじめる。

 主人公ピンクを演じているのは、ミュージシャンのボブ・ゲルドフ。劇中のピンクはかなりの問題児ですが、ゲルドフ本人はこの映画の数年後にバンド・エイドを企画し、それに呼応したUSAフォー・アフリカと共にライブ・エイドという世界的チャリティーまで行ってノーベル平和賞候補になってしまったというから、人は見かけによらないというか、映画の中のイメージだけで人を判断しちゃいけないなと思う次第。

 映画のストーリーは一応あるけれど、現在・過去・幻想などが映像として交錯するので、すべてが主人公の心象風景だと一括した方が理解しやすいと思う。映画は導入部が第二次大戦中の塹壕から始まり、1950年代、'70年代、'80年代のピンクが描かれる。セットやファッションで的確に時代性を感じさせるあたりは、さすがにアラン・パーカー。映画はあらゆるテクニックを使ったイメージの洪水であり、映画の中にはその後のパーカー作品を連想させるようなシーンもたくさんある。音楽ファンはピンク・フロイドの映画として観るだろうが、映画ファンにとってこれはアラン・パーカー作品だ。

(原題:PINK FLOYD THE WALL)

2002年GW公開 渋谷シネパレス(レイト)
配給・問い合せ:ケイブルホーグ

(上映時間:1時間35分)

ホームページ:http://www.cablehogue.co.jp/pinkfloydthewall/

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CD:ザ・ウォール(ピンク・フロイド)

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