羊のうた

2002/02/08 松竹試写室
冬目景の同名コミックをテレビ出身の花堂純次監督が映画化。
暗い。地味。何が言いたいのかわからない。by K. Hattori

 月刊誌「コミックバース」で現在も連載中が続く冬目景の同名コミックを、テレビドラマ出身の花堂純次監督が映画化した作品。花堂監督はこれが映画デビュー作になる。高校生の高城一砂(たかしろかずな)は幼い頃に叔父夫婦のもとに引き取られ、そこで今まで世話になっている。子供のいない叔父夫婦は一砂を養子にと考えているが、一砂はなぜ父が自分を手放したのかという点に少しわだかまりを感じてもいる。最近ちょくちょく見る奇妙な夢。それは幼い日の記憶につながっているのだろうか。血を見たことで感じる目眩のような感覚。やがて彼は幼い頃の記憶をたどって、自分が小さい頃に父と暮らしていた家を訪ねてみる。そこには美しい少女・千砂(ちずな)がひとりで住んでいた。千砂は一砂の姉だ。父緒は半年ほど前に亡くなったという。千砂は一砂に、高城家に伝わる奇病の話をする。母方から伝わったその病気は、発症した者が人間の血を求めずにいられないという「吸血病」だった。千砂は既に発症しており、薬で発作を抑えている状態。そして一砂もまた、その病気が発症しつつあることは明らかだった……。

 一風変わった吸血鬼映画だが、ここに登場する吸血鬼は、日光に当ると死んでしまうとか、十字架やニンニクや水に弱いとか、コウモリやオオカミに変身するとか、心臓に杭を打たれるまで永遠の命を持っているという、ドラキュラ型(東欧型)の吸血鬼とはまったく異なっている。一砂と千砂は家系に代々伝わる遺伝病の持ち主で、病気が発症すると定期的に人間の血を吸わずにいられない衝動に襲われる。心理的なトレーニングや薬物で小さな発作は抑えられるが、大発作は患者の肉体と精神に多大な負担を与えるのだ。一砂と千砂の母親は、大発作を起こして狂死同然の死に方をしたらしい。姉弟はいずれ訪れるであろう決定的な大発作という爆弾を抱えながら、周囲の人々を傷つける心配のない場所でひっそりと暮らすことを選ぶ。病気を滅ぼすには、自分たちの代で病気の連鎖を断ち切るしかない。一砂も千砂も自ら死ぬことはしないが、いつも死ばかりを見つめて生きている。

 映画は一砂と千砂の近親相姦的な姉弟関係に、一砂のガールフレンドである八重樫葉との三角関係をからめて進行していく。千砂に想いを寄せる若い主治医・水無瀬(みなせ)や、死んだ後も姉弟を呪縛し続ける父親の思いでも重要な役目を果たす。吸血鬼映画の一種ではあるがホラーでもファンタジーでもないし、青春映画としても恋愛映画としても地味で暗すぎる内容。僕にはまったくピンと来ない映画だった。

 吸血鬼となった人間にとって周囲の他の人間は餌であり、この映画は冒頭でそれを「羊の群の中で暮らす狼」の関係になぞらえている。ところが映画では、姉弟の中に血に飢えた「狼」の凶暴さが見えてこない。吸血病は治療困難な遺伝病であり、その病気を抱えた人間がどう生きるかという問題にテーマがすり替わっている。病気を他の遺伝病に変えても、似たような映画は作れそう。

2002年3月30日公開予定 新宿トーア
配給:グルーブコーポレーション 配給協力:アースライズ

(上映時間:1時間49分)

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原作「羊のうた」(冬目景)

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