棒 Bastoni

2002/02/01 TCC試写室
AV男優を主人公にした異色ラブコメディ。主演は松岡俊介。
田口トモロヲや奥田瑛二など豪華な配役。by K. Hattori

 誰もがその存在を知っているのに、あまり日の目を見ない職業というのがある。AV男優というのもそのひとつだ。一部にはカリスマ的な人気を持つ男優もいるらしいが、ほとんどは女優にあてがわれた刺身のつまみたいな存在だと思う。この映画の主人公である山口というAV男優も、「カリスマAV男優」というわけではなさそうだ。若さとフェイスのよさでそれなりに人気があるようだが、超売れっ子というわけではない。むしろ業界内では、同業者である人気AV女優の夏生の結婚相手として知られている。撮影現場で知り合ったふたりは初対面で互いに恋に落ち、そのまま結婚したという話題のカップル。夏生は山口の子を妊娠している。

 時と場所が変われば、物事の評価基準や価値判断も変わる。普通の人が女性を見るたびイチモツを勃起させていたら色情狂の変態だが、AVの世界では道具が役に立ってナンボ。立たぬモノには一銭の価値もない。「立たせてこそ男」「やってこそ男」「男の道具はでかくて固くて持続力があるのが最高!」という男根至上主義の原理が、きわめて素直に反映されている現場なのだ。これが世の男性の男根崇拝を煽り、ペニスのサイズや形や持続時間に自信のない男どもをコンプレックスの淵にたたき込むことになるのかもしれないが、そんなことはAV制作者たちの責任じゃないけどね。この映画で面白かったのは、AV制作の現場では逆に「立たないこと」が純愛の証明とされてしまうこと。そんなのまるで嘘だと思うけど、それがやっぱり嘘であることが映画の最後に明らかにされる様子は痛快です。

 監督はこれがデビュー作の中村和彦。R-18の指定が付いた映画で、AV制作の内幕話だから当然ラブシーン多い。しかし出演者は豪華。主人公の山口を演じるのは松岡俊介。その元恋人役に金谷亜未子。AV男優仲間に田口トモロヲ。AVプロデューサーに北村一輝。AV監督に金山一彦。AVメーカーの社長に奥田瑛二。
 主人公夫婦に元恋人がからむ三角関係のドラマは、人物配置としてはありがち。しかしそこにAV撮影の現場というむき出しのセックスがからまることで、普通ではない緊張関係が生まれてくる。妻が他の男にフェラチオしても、「それが仕事だから」「稼げる時に稼がないと」と割り切る夫。夫が他の女とセックスすることも、「それが仕事だから」と割り切る妻。だけどセックスというお仕事は、そんなに簡単にすべて割り切れるものなのか? やっぱり割り切れないと思うよ。

 面白い世界に目をつけた映画で、作品としても素材に負けない面白さに仕上がっている。でもあと一歩踏み込み不足で食い足りない。映画の中盤までは面白いんだけど、後半の取りまとめが未整理ではないだろうか。田口トモロヲ扮するAV男優と家族のエピソードは、「AVを職業として割り切れるか」というテーマのひとつの回答だろう。でもこれが主人公夫婦の話とうまくつながってこない。もう少しで傑作なのに、これで秀作どまり。

2002年3月16日公開予定 銀座シネパトス(レイト)
配給:ゼアリズエンタープライズ 問い合せ:アルゴ・ピクチャーズ

(上映時間:1時間33分)

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