トゥーランドット

2002/02/01 メディアボックス試写室
映画監督チャン・イーモウが演出したオペラ「トゥーランドット」の舞台裏。
参加している全員が芸術家だから、演出は大変だ。by K. Hattori

 1998年9月。北京の紫禁城でプッチーニのオペラ「トゥーランドット」が上演された。指揮はズービン・メータ。演出は映画監督のチャン・イーモウ。中国の王宮を舞台にしたオペラを、舞台になった中国の王宮跡で上演し、しかも中国人に演出させるという、誰でも考えそうでいて今まで誰もやらなかった大プロジェクト。その全貌を記録したのが、この『トゥーランドット・プロジェクト(原題)』だ。監督は音楽イベントのドキュメンタリーを数多く手がけたアラン・ミラー。『ミュージック・オブ・ハート』の原作となったドキュメンタリー映画、『ハーレムのヴァイオリン教室』でオスカー候補になっている人物だ。映画は約1時間半。そのうち最初の30分は、チャン・イーモウがメータに依頼されて「トゥーランドット」に初めて挑むフィレンツェ公演の様子。残り1時間で北京公演の準備と実際の公演の様子が記録されている。映画監督が舞台やオペラの演出を手がけることは多いが、チャン・イーモウにとってオペラの演出はこれが初めてだったという。映画とはまったく違う様子に戸惑い、周囲のスタッフたちと衝突しながらひとつの芸術作品を作り上げていく様子は興味深い。

 僕はクラシック音楽のファンではないし、オペラ「トゥーランドット」がいかなる作品なのかをまったく知らない。映画のモチーフとなっている紫禁城公演が、音楽ファンの間からどのような評価を受けているのかも知らない。そもそもそんなことに興味を抱かない。しかしこの映画は、クラシック音楽やオペラに興味がなくても面白がれる。この映画には、強烈な個性同士が火花を散らして衝突するという、あらゆる人間ドラマに通じ合う葛藤があるからだ。指揮者のメータ。演出家のチャン・イーモウ。出演する歌手たち。音楽家。照明デザイナー。誰もが「我こそは!」と自分の才能に誇りを持つ芸術家ばかり。芸術は妥協することからは生まれない。芸術家に一番苦手なのは、他人の意見に妥協して自己の表現を曲げることだ。ところがオペラの公演というのは、予算的にも、時間的にも、技術的にも、そして何より芸術面でも、妥協に次ぐ妥協を強いられる現場にならざるを得ない。映画とオペラの演出作法の違いに戸惑うチャン・イーモウ。彼からの注文を「オペラを知らない素人の意見」と言って捨てる、ベテラン照明デザイナーとの確執。これぞ映画最大の見どころだ!

 映画のメインは紫禁城での公演だが、その前のフィレンツェ公演の様子と対比することで、紫禁城公演のスケールの大きさが誰にでもわかる仕掛けになっている。舞台のスケールが数倍に広がり、大道具や小道具、衣装などもすべて新たに作り直されているのだ。「すべて本物」を目指した大道具や小道具、衣装の数々は、時代考証の完全さを求めてすべてゼロから手作り。衣装代だけで1億円近いお金がかかっているというから驚く。

 完成したオペラはDVDが発売されているそうですが、このドキュメンタリーを観るとそれも欲しくなります。

(原題:The Turandot Project)

2002年4月上旬公開予定 シネセゾン渋谷
配給:東京テアトル、メディアボックス 宣伝協力:メディアボックス

(上映時間:1時間25分)

ホームページ:http://www.cinemabox.com/


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