アナトミー

2002/01/30 SPE試写室
名門医大の解剖室で夜な夜な行われている生体解剖。
ドイツ医学界の暗部が女学生の手で暴かれる。by K. Hattori

 ソニー・ピクチャーズが配給する《SHOCKING MOVIE PROJECT》の第2弾。『ラン・ローラ・ラン』のフランカ・ポテンテ主演のサスペンス映画だ。地元大病院の3代目として生まれ、医学部でも成績優秀なパウラという女学生が主人公。彼女はより高度な医学研究のため、ハイデルベルグの名門医科大学に進む。常に合理的な判断を尊重し、何事にも物怖じしないパウラだったが、最初の解剖実習で解剖台に上がったのが、電車の中で知り合った青年の死体だったことにはさすがにショックを受ける。心臓に疾患のある彼だったが、それが死因ではないらしい。なぜ彼は死んでしまったのか。それを調べ始めたパウラは、大学を隠れ蓑にする秘密結社「アンチ・ヒポクラテス連盟(AAA!)」の存在を突き止める。医療より非倫理的な医学研究を優先するAAA!は、生きた人間を使って生体解剖を繰り返していたのだ。

 医学というのは人間の生命を直接扱う学問だけに、時と場合によっては「研究と人命のどちらを優先するか」という倫理的な問題に突き当たる。目の前の患者をひとり助けることより、その患者の死によって得られるデータを使って、その後の数十人、数百人という患者を助けるほうがより有益ではないかという悪魔の囁き。患者を助けるより、病気そのものを自分で研究したいという誘惑。これを退けるのが医者の倫理というものであり、その源流となっているのが古代ギリシャより伝わる「ヒポクラテスの誓い」という宣誓だ。

 だがこうした医師の倫理を脇に追いやり、まずは研究を優先しようとする人々がいる。この映画に登場するアンチ・ヒポクラテス連盟がそれであり、かつて中国大陸でさまざまな人体実験を行った日本の731部隊も同じだろう。人体実験についてはナチス・ドイツ時代のそれが有名だが、この映画の中ではナチス時代の人体実験とアンチ・ヒポクラテス連盟が強く結びつけられている。日本の731部隊は戦後もその犯罪性を問われることなく、関係者たちは日本医学界の重鎮へとのし上がっていったと言われている。同じようにアンチ・ヒポクラテス連盟の医師たちも、その研究成果を武器にして医学界の中枢を占めている。この映画は医療の倫理、医師たちが過去に犯してきた犯罪行為の上に成り立つ現代医療という問題を、サスペンスを通して透かしてみせる。

 医学と倫理の問題を扱った同趣旨の作品としては、ヒュー・グラント主演の『ボディ・バンク』という映画があった。『ボディ・バンク』でも最終的には医療と倫理の問題を提起したにとどめ、最終的な判断は保留したままだったと記憶する。それはこの映画でも同じだ。研究のためとはいえ、医師が殺人を犯すのは許されない。それは倫理以前の問題だ。だが医学の最先端では、生命倫理の問題があやふやな問題として取り残される。

 映画にはグロテスクなシーンもたくさんあるが、逆にユーモアもあったりして楽しく観られる。フランカ・ポテンテもチャーミング。なかなか面白い映画でした。

(原題:ANATOMY)

2002年3月30日公開予定 シネマ・メディアージュ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 問い合せ:メディアボックス

(上映時間:1時間39分)

ホームページ:http://www.spe.co.jp/movie/smp/

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