少年と砂漠のカフェ

2002/01/16 映画美学校第2試写室
アボルファズル・ジャリリ監督が描くアフガン難民とイランの関係。
国境そばの小さなカフェに集うアフガン人たち。by K. Hattori

 イランの映画監督アボルファズル・ジャリリの最新作は、オフィス北野とバンダイビジュアルが出資したイランと日本の合作映画だ。イランはアフガニスタンと国境を接している。そんなわけでイランの映画で現在もっとも脚光を浴びているのは、タリバン政権下のアフガニスタンを描いたモフセン・マフマルバフ監督の『カンダハール』だと思うが、この『少年と砂漠のカフェ』も間接的にアフガニスタン問題を描いた作品だ。原題の『デルバラン』はイランとアフガニスタンの国境に近い町。舞台になっているのは、その町を通る幹線道路沿いにある小さなドライブインだ。邦題はそこを「砂漠のカフェ」と称しているが、“カフェ”という洒落た言葉はこの設備には似合わない。砂埃にまみれた街道沿いに、すすけた建物が1軒だけぽつりと建っているだけだ。

 物語の主人公は、そこで働く14歳の少年キャインだ。彼はアフガニスタンから不法に国境を越えて、このドライブインで働いている。ドライブインには、不法出稼ぎのアフガン人たちがたびたび立ち寄る。それを取り締まる役人も、時々やってきては店の主人である老夫婦に怒鳴り散らす。映画はこのドライブインの日常を淡々と描いていく。説明的な台詞は一切ない。台詞自体がものすごく少なく、ぼんやりしていると目の前で何が起きているのかとっさにはわからないほどだ。『ダンス・オブ・ダスト』ほどではないが、この映画を観るにはかなりの注意力と集中力が必要だと思う。

 この映画はマフマルバフ監督の『カンダハール』と違って、アフガニスタンの政治情勢について何かを語ろうとしているわけではない。だがこの映画を観ると、イランとアフガニスタンの微妙な距離感が理解できるような気がするのだ。アフガン情勢のニュースでは、アフガニスタンと国境を接するパキスタンとの関係が取りざたされることの方が圧倒的に多い。イランは今回の対テロ戦争で特に目だった動きをしていないこともあり、アフガン問題について語る際は視界の外に出てしまいがちなのだ。ところがそんなイランも、アフガニスタンからの亡命者、難民や移民、出稼ぎ目的の不法入国者を多数抱え込んでいる。考えてみれば遠く離れたアフガンの情勢に日本があたふたしているのだから、隣国のイランが影響を受けないはずがない。しかしその当たり前のことが、ニュース報道ではなかなか伝わってこないのだ。こんな時、映画はニュース以上に世界の今を語ってくれる。

 主人公キャインを演じているのは、キャイン・アリザデというアフガン難民の少年だ。映画という虚構の中にドキュメンタリー要素を織り込んでいくジャリリ監督は、この映画にも「キャイン」という少年の私生活を引用していく。映画はほとんどがフィクションだろう。だがそこにキャイン少年という「現実」が1点紛れ込むことで、映画全体が半ばノンフィクションになる面白さ。映画の中では、イラン人の娘とアフガン難民の青年が、言葉も通じないまま結婚する話が面白かった。

(原題:Delbaran)

2002年3月30日公開予定 シネ・ラ・セット
配給:ビターズ・エンド

(上映時間:1時間36分)

ホームページ:http://www.bitters.co.jp/

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