タイムリセット
運命からの逃走

2002/01/08 TCC試写室
恋人を救うため奇妙な人命救助に奔走する青年の奮闘。
オキサイド・パン監督のデビュー作。by K. Hattori

 間もなく『レイン』が公開されるオキサイド・パン監督のデビュー作。双子の兄弟ダニー・パンはこの映画で編集担当としてクレジットされている。日本では公開が先行する『レイン』は、香港ノワールを最新デジタル技術を使ってスタイリッシュにリメイクしたような作品で、内容面で完成度が高いものの、目新しさは感じなかった。しかしこの『タイムリセット』は新鮮だ。輪廻転生や因果応報という、いかにも仏教国タイらしい設定がベースにあるのだが、描かれる物語は制限時間内に主人公があるミッションを成し遂げることができるか否かというサスペンス。主人公には5つの課題が与えられ、それをひとつずつクリアしていく過程には、アドベンチャーゲームをプレイするようなワクワクドキドキがある。

 主人公の青年ジァップは、恋人のワーンが突然原因不明の病に倒れて大きなショックを受ける。信心深くて心優しいワーンが病に倒れ、不信心でいい加減に生きている自分が健康でいられるという不条理。ジァップは何とか彼女を救ってくれるよう寺に行って一心に祈るが、現れた高僧はワーンの死は避けられない運命だと断言する。じつは彼女は前世で、一家5人を皆殺しにした強盗だった。ワーンが今生でいくら善行を積んでも、5人殺しの罪は償えない。彼女を助けるには、前世で殺された5人に代わる5人分の命を救わなければならない。ジァップは光の中から現れた不思議な新聞紙を手がかりに、近々自殺したり殺されたりするはずの人々を救うために奔走することになる。はたしてジァップは5人の命を救って、愛するワーンの命を助けることができるのか?

 不思議な新聞に載っている未来を変えようと、主人公が右往左往する様子は『バック・トゥー・ザ・フューチャー』などのタイムトラベルものに近いテイスト。ちなみにこのタイトルは、映画の中でもちゃっかり引用されている。『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のマーティは良心の縁結びをするだけで映画1本分の時間を費やしたけれど、この映画のジァップは1時間半の間に、警官の自殺の原因を取り除き、学生の自殺を思いとどまらせ、少女の自殺を取り押さえ、警官の殉職を未然に防ぎ、交通事故から子供を守らなければならいのだから大変だ。この5つの出来事を、いろいろなタッチで描き分けるあたりに、パン監督の芸の細かさが見て取れる。スローモーション、フラッシュバック、フラッシュフォワード、モノクロ画面、デジタル合成など、ひとつひとつのエピソードにはあらゆるテクニックが注ぎ込まれている。どうせ最後はハッピーエンドになるとわかっていても、その手練手管に「次はどうなる?」という期待感を常に抱かせるのだから大したものだ。

 ジァップを演じたサンヤー・クンナゴンはハンサムと言うには程遠い鈍くさい風貌だが、いかにも普通の人っぽいこの顔で必至にがんばるところが観客の共感を呼ぶ。ヒロインを演じたナンタリガー・タンマプリーダナンは、ちょっと松たか子に似た美人です。

(原題:Ta Fa Likit/WHO IS RUNNING?)

2002年2月下旬公開予定 キネカ大森他・全国順次
配給:ギャガ・コミュニケーションズ アジアグループ
協力:エスピーオー 宣伝:FREEMAN

(上映時間:1時間45分)

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