バニラ・スカイ

2001/12/28 日比谷スカラ座1
スペイン映画『オープン・ユア・アイズ』をハリウッドで再映画化。
主演はトム・クルーズとペネロペ・クルス。by K. Hattori

 アレハンドロ・アメナバールの『オープン・ユア・アイズ』を、トム・クルーズ製作・主演で映画化したサスペンス映画。監督は『ザ・エージェント』でクルーズと組んでいるキャメロン・クロウ。共演はオリジナル版『オープン・ユア・アイズ』にも出演していたペネロペ・クルス。この映画がきっかけで、トム・クルーズとペネロペ・クルスの交際がスタートした話題の作品だが、ラックス・スーパーリッチのCMが既に「ペネロペ・クルーズ」と名前を表記しているのは気になる。しかもそのCMを、『バニラ・スカイ』上映前に劇場で上映していたりするから余計に気になる……。

 映画の中身はオリジナル版『オープン・ユア・アイズ』とほとんど同じだけれど、スペインの話がニューヨークになり、主演がエドゥアルド・ノリエガからトム・クルーズに変わるだけで、ずいぶんとゴージャスな雰囲気に変身した。『オープン・ユア・アイズ』はアイデア勝負の小規模作品として作られた傑作だったけれど、『バニラ・スカイ』は堂々としたハリウッドの大作映画になっているのだ。こうしてヨーロッパ映画をハリウッドで再映画化した場合、往々にしてその映画は「オリジナル版をベースにした甘いカクテル」みたいな映画になりがちだ。オリジナル版が持つ原酒の荒々しい魅力を、ハリウッド・システムというジュースで薄めて、ソフトドリンクのような口当たりのいい飲み物にしてしまう。『バニラ・スカイ』もカクテルには違いないのだが、これは『オープン・ユア・アイズ』という原酒に、トム・クルーズやキャメロン・クロウという別種の原酒を混ぜたブレンドウィスキーみたいなもの。口当たりはまろやかになっているけれど、アルコール度数はかなり高い。

 斜に構えたユーモアが特徴のキャメロン・クロウ監督だが、今回はそのユーモアを控えめにしてサスペンス演出に専念。しかしその分、クロウ監督ならではの音楽センスが炸裂している。クライマックスで高らかに鳴り響くビーチ・ボーイズの「グッド・バイブレーション」なんて、一歩間違えれば場違いだけど、ここでは背中に冷水を浴びせられたようなショック効果を生んでいる。

 殺人容疑をかけられた主人公が、精神科医に自分の体験を告白し、それが回想シーンとして映画の中で再構成されていくという構成。主人公の男は必然的に、映画のすべての場面に登場することになる。この映画の中ではそれがトム・クルーズだから、映画はどの場面を取り出しても大スター特有の光り輝くオーラに包まれている。これはファンにとっては嬉しいけれど、格別トム・クルーズに興味のない人にとっては、どこを切っても同じ味の金太郎飴みたいな映画に感じられることだろう。このあたりは観る人の趣味によって、賛否が分かれるところだと思う。また『オープン・ユア・アイズ』をあらかじめ観ているかどうかでも、本作の感想は違ってくると思う。『オープン・ユア・アイズ』を観ていると、仮面の下に常にトム・クルーズを意識してしまうからなぁ。

(原題:VANILLA SKY)

2001年12月22日公開 日比谷スカラ座1他・全国東宝洋画系
配給:UIP

(上映時間:2時間17分)

ホームページ:http://www.uipjapan.com/vanillasky/

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ