バスを待ちながら

2001/12/07 映画美学校第2試写室
バス停でバスを待ち続ける人たちの交流を描くコメディ。
バス停にはキューバの今が凝縮されている。by K. Hattori

 '93年の映画『苺とチョコレート』と同じメンバーで作ったコメディ映画。監督・脚本は『苺とチョコレート』をトマス・グティエレス・アレアと共同監督したファン・カルロス・タビオ。主人公エミリオ役に『苺とチョコレート』『ビバ!ビバ!キューバ』のウラジミール・クルス。盲目の天才エンジニア、ロランド役に、同じく『苺とチョコレート』のホルヘ・ペルゴリア。ヒロインのジャクリーン役はオーディションで選ばれたタルミ・アルバリーニョ。共同脚本として、映画の原作者でもあるアルトゥーロ・アランゴと『苺とチョコレート』のセネル・パスがクレジットされている。音楽のホセ・マリア・ビティエールも『苺とチョコレート』の参加メンバー。しかし僕は『苺とチョコレート』を未見。

 キューバの田舎町にあるバス停留所に、エミリオという青年がやってくる。待合室は人でごった返しており、ここ2日ばかりバスは到着していないと言う。数十人の待機客がいるのに、仮にバスが到着してもせいぜい数人分の空席しかないのだ。これではバス待ちの列はいつまでたっても前に進まない。エミリオがやってきた直後、バス停にはジャクリーンという美女がやってくる。エミリオは彼女に一目惚れ。だが彼女はスペインからやってくる婚約者に会うため、バスでハバナに向かおうとしていたのだ。エミリオはサンティアゴに向かう予定だから、この恋はどちらかのバスが到着するまでのつかの間の恋。エミリオはバスが速く到着して欲しいような、永久にバスが到着して欲しくないような、複雑な気持ちになる。

 到着しないバスを待つうちに、待合室の客たちが親しくなって疑似家族のような関係を築き上げるという物語。エミリオがこの映画の主人公なのは確かだが、物語の進行にあわせて、小さな脇役だと思われていた人物たちが意外な個性を発揮しだす。この映画はエミリオ個人の体験を描いているわけではなく、バス停留所に集まった人々全体が主役なのだ。盲目の天才エンジニアがじつは……とか、堅物の所長が思いがけない才能を発揮して……とか、料理自慢の未亡人が……とか、倦怠期を迎えた夫婦がその後……とか、印象に残るエピソードがいくつもある。それに比べると、エミリオとジャクリーンのエピソードはむしろ普通すぎてつまらないくらい。エミリオはこの雑多な人物群の中に分け入っていくための、狂言回しとしての役割を担っている。

 キューバの経済状態や社会状態がかなり辛辣に描かれているのだが、それを社会批判や告発としてではなく、ユーモアたっぷりに「まぁそんな風になってます」と描いている点に好感が持てる。文句を言ってもしょうがない。状況がダメでも、そのダメな状態から出発しなければしょうがないのです。その状態も気持ちさえ切り替えれば、きっと楽しいはずだという楽観的な気分。暗いシーンもあるけれど、それを映画と原作の入れ子構造にしてサラリと流し、ほろ苦いラストシーンさえも新しいスタートにしてしまう。音楽もダンスもあって楽しいぞ。

(原題:LISTA DE ESPERA)

2002年1月中旬公開予定 銀座シネ・ラ・セット
配給:シネカノン

(上映時間:1時間46分)

ホームページ:http://www.cqn.co.jp/

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