スパイ・ゲーム
2001/11/27 日本劇場(完成披露試写)
ロバート・レッドフォードとブラッド・ピット主演の本格スパイ映画。
監督はトニー・スコット。さすがに面白い映画。by K. Hattori
ロバート・レッドフォードとブラッド・ピットがCIAの情報部員を演じる、本格派のスパイ・アクション映画。監督はトニー・スコット。物語の舞台は現代ではなく、冷戦が終結した直後の1990年代前半に設定されている。レッドフォード演じるCIAのベテラン諜報部員ネイサン・ミュアーは、定年退職の朝を香港からの国際電話で叩き起こされる。かつてネイサンの部下だったトム・ビショップという男が、中国で単独行動中に当局に逮捕されたというのだ。トムが中国で何をしようとしていたのかは不明だが、刑務所から誰かを救出しようとして失敗したらしい。アメリカが中国との通商会談直前というタイミングであることも考慮し、CIAはこの事件を闇に葬ろうとする。トムの行動については我関せずの態度を取り、彼を見殺しにするつもりなのだ。ネイサンは事態収拾のための会議に出席しながら、各方面に連絡を取りながら独自に情報を収集し、トムが中国で何をしようとしていたのかを探り、トムを救出する可能性を模索する。ネイサンが挑む最後の敵は、必然的にCIAという巨大諜報組織そのものになる。
物語はCIAの会議室を中心に展開するが、そこでネイサンがトムとの過去の活動歴を報告することで、回想シーンとしてさまざまな諜報活動や破壊活動の全貌が明らかになっていくという構成だ。ネイサンが軍にいたトムをスカウトした事情。新米情報員となったトムの訓練風景。初めてのミッション。人間をチェスの駒のように扱うネイサンと、自分と関わる人間に対して非情になりきれないトムの確執は深まっていく。やがてふたりの亀裂を決定的にする、ある事件が起きるのだ。
この映画には荒唐無稽な秘密兵器も、向かうところ敵なしの格闘技も登場しない。ここで描かれているスパイ戦争は、情報員の観察眼と分析能力、人的なコネクションと資金力、的確で素早い判断と俊敏な行動によって支えられている。武器になるのは自分の頭脳のみ。早指しのチェスのように猛スピードで展開する状況を巧みに読み込みながら、次の一手を間違いなく指し続ける集中力が、情報員自身の生死と国家の命運を決める世界だ。この手のハードなスパイ映画として、最近ならクリスチャン・デュゲイ監督の『アサインメント』という作品があった。だが『スパイ・ゲーム』の内容は、それよりずっとリアルでハードだと思う。
昨日今日のニュースは、アフガニスタンでタリバン兵の暴動が起こり、それに巻き込まれてCIA職員がひとり死んだと報じている。おそらくこうした事件や紛争の背後に、CIAの諜報網が張り巡らされているのだろうと思う。表に出ることはほとんどないが、今はまさに『スパイ・ゲーム』に描かれているような世界が実在するのだろうと思わせるニュースが世の中に満ちている。描かれている時代は冷戦時代だが、たまたま起きたアメリカへの連続テロ事件が、この映画に描かれた世界を現在進行形のものにしてしまった。
(原題:SPY GAME)