スカーレット・ディーバ

2001/11/27 TCC試写室
アーシア・アルジェントの映画監督デビュー作。
好色プロデューサーの暴走には大笑い。by K. Hattori

 『サスペリア』や『デモンズ』などのホラー作品で知られるイタリアの映画監督ダリオ・アルジェントの娘として、父の監督する数々の映画に出演していたアーシア・アルジェントの映画監督デビュー作。彼女はパトリス・シェローの『王妃マルゴ』に脇役で出演しているし、ピーター・デル・モンテの『雨上がりの駅で』ではミシェル・ピコリと共演しているから、必ずしも親の七光りだけで女優をしているわけではない。最近は短篇映画やドキュメンタリー作品を監督したり、小説を書いたりもしているという才女なのだ。この映画はそんな彼女の長編映画監督デビュー作である。

 主人公アンナ・バッティスタは、イタリア国内で数々の賞を受賞している人気女優。彼女自身は自分で映画を監督したいと考えているが、エージェントはつまらない映画企画をアンナに押しつけ、プロデューサーたちはアンナの身体目当てに彼女に近づいてくる。全世界を飛行機で飛び回る生活の中で、アンナはセックスとドラッグに溺れて自分を見失い掛ける。だが小さなクラブでミュージシャンのカークと出会って恋に落ちた彼女は、この出会いを運命的なものだと確信したのだが……。

 ヒロインが監督志望の若い女優という設定から、そもそもこの映画がアーシア・アルジェント本人の自伝的内容を含んでいることをあからさまに白状している。映画に描かれるエピソードの一部分は、監督本人の体験談から生まれているのだろう。もちろんアンナは監督とは別の人格であって、同一の精神を持っているわけではない。アーシア・アルジェントについて語るとき不可欠な父親の存在が、アンナからは完全に除外されている。アンナは元女優の母親から、私生児として生まれた設定らしい。正直言って、僕はこの映画の暗さを好きになれないのだ。ヒロインがなぜ映画をつくりたいのかという、その動機が「女優をやめたい」という逃避にしか見えない。彼女が望んでいなかった妊娠をあえて継続したのは、彼女がカークを愛していたからであると同時に、妊婦になることでつまらない女優業から一時にせよ抜け出せると考えたからではないだろうか。彼女は妊娠を続けることを決意した後も、医者の診察もろくに受けず、酒は飲み、タバコは吸い、ドラッグも続ける。どう考えても、アンナが子供を積極的に欲しがっているようには見えない。

 ただし個々のエピソードの中には、とんでもなく面白くて生々しいものがいくつか存在する。恋人に殴られることでしか愛を確認できないアンナの親友とか、言葉巧みにアンナを部屋に引っ張り込み、レイプしようとするプロデューサーとか……。特にこのプロデューサーのエピソードは最高に面白い。どうしたらこんなキャラクターを考えつくのか。やっていることは無茶苦茶なのに、「こんな奴がきっと映画界にはいるんだろうな」と思わせるリアリティがある。この役にはきっとモデルがいるか、監督自身が似たような事件に遭遇したことがあるのだと思う。映画界って、恐いところだなぁ。

(原題:SCARLET DIVA)

2002年新春第2弾公開予定 シネ・アミューズ
配給:クライドフィルムズ

(上映時間:1時間36分)

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