シュレック

2001/11/20 UIP試写室
みにくいシュレックが美しいお姫様を救出するが……。
おとぎ話の世界を逆転させたアニメ映画。by K. Hattori

 ウィリアム・スタイグの絵本「みにくいシュレック」(セーラー出版から邦訳が出ている)をベースにした、ドリームワークス製作のアニメーション映画。映画は必ずしも原作をそのままなぞっているわけでもないようだが、古今東西のおとぎ話をそっくり逆転させるというアイデアは面白い。おとぎ話のお姫様は魔女に魔法を掛けられたまま、高い塔の中で白馬の王子が救出に現れるのを待っている……。そんなおとぎ話の約束事に反旗を翻したのが、フェミニズムの童話「アリーテ姫」とその映画版だったりするのだが、この『シュレック』はそれよりももっとスマートでなおかつ辛辣だ。おとぎ話のお姫様は、塔の中でやっぱり白馬の王子さまを待っている。その理由の半分は呪いのせいだが、半分は彼女自身の選択によるものだ。お姫様は塔を出られないのではない。自分にふさわしい“白馬の王子”が現れるまで、塔から出ようとしない。お姫様が広い世界に出ていく『アリーテ姫』も確かに現代の女性像だと思うけれど、何だかんだ言ってシンデレラ願望が抜けきらない女性像を意地悪に描いてみせる『シュレック』もまた真実だろうと思う。

 お姫様を不自由な境遇に縛り付けている牢獄は、魔女の呪いという外的な要因によって無理強いされているものではないのだ。『シュレック』に登場するお姫様は、「本来あるべき自分」と「本当の自分」のギャップから目を逸らすため、自分自身の意思で塔の中に閉じこもっている。本当の自分の姿がどんなものか知らないくせに、本当の自分さえ取り戻せれば幸せになれると思いこんでいるお姫様の姿は滑稽であり哀れだ。フィオナ姫は美人で強くてかっこいい理想の女性像のように見えるけれど、じつは自分にまったく自信の持てないだめな女なのです。しかし「今ある自分は本当の自分じゃない」「条件さえ整えば自分だって」と考えている男も多いだろうから、この映画に登場するフィオナ姫を笑える男も少なかろう。

 物語は「塔の中のお姫様」という童話をひっくり返しているだけではなく、白雪姫、シンデレラ、ピノキオ、三匹の子豚など、さまざまなおとぎ話や童話を引用してパロディにする。このあたりは往年のディズニーアニメをパロディの肴にしているようで面白い。いや、面白いを通り越して挑発的ですらある。塔の中の眠り姫を救出する話は『眠れる森の美女』で、美しいお姫様に怪物が恋心を抱くのは『美女と野獣』。どっちもディズニーアニメじゃないか! こうしたわかりやすいモチーフを使いながら、『シュレック』の語り口はこれまでのおとぎ話から180度逆転し、しかもテーマは普遍的なものを語っている。人間にとって本当に大切なものは、外見ではなく心の中にあることを訴えている。背の高さにコンプレックスがあるファクアード卿は、それがわからなかった男だ。だがファクアード卿の姿は、シュレックとフィオナ姫がそうなっていたかもしれない姿でもある。

 子供が観ても面白いだろうが、これは大人が観た方がいろいろと考えさせられる映画だと思う。

(原題:SHREK)

2001年12月15日公開予定 日劇プラザ他・全国東宝洋画系
配給:UIP

(上映時間:1時間31分)

ホームページ:http://www.shrek.jp/

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