ダブルタップ

2001/11/12 TCC試写室
レスリー・チャンがたったひとりで警察と戦うサスペンス・アクション。
ガンアクションには身震いするほどの迫力がある。by K. Hattori

 レスリー・チャン主演のサスペンス・アクション映画。殺人の快楽に目覚めた元警官の暴走を、警察が必死に止めようとする物語だが、レスリーが演じるのは犯行を止めようとする側ではなく犯人の側だ。レスリー演じるリックは香港警察の中でも1,2を争う射撃の名手。射撃用拳銃の改造技術にも長けており、彼に射撃の講習を受けたいと願う警官も多い。射撃の腕でリックと肩を並べるミウ刑事は、リックの射撃の腕前を高く評価しつつも、彼が持つ独善的で潔癖な性格の偏りに気づいていた。ある日、警察内の射撃大会で、錯乱した警官が銃を乱射する事件が起きる。その警官の友人だったミウは、彼を撃つことをためらう。だがリックは男の銃口が恋人に向けられるや、瞬時に自分の銃の引き金を引いた。大勢の命を守るためとはいえ、同僚警官を射殺してしまったという負い目に苦しめられるリック。だが彼を本当に苦しめているのは、人間を撃つことによって心の底からわき上がってくる純粋な喜びだった。リックは警察を退職する。それから3年後。大勢の警官が警護する検察証人が、凄腕の殺し屋によって襲われるという事件が起きる。警察は手口を分析した結果、リックを重要参考人として拘束する。決定的な証拠を持たない警察は、リックの恋人を不当に拘束することで彼を挑発する……。

 映画の見どころは、冒頭からラストまで間断なく続くガンアクション。前半は競技射撃なので標的もダンボールや鉄板だが、警察のリックに対する挑発が限界を超えた瞬間、リックの銃口は古巣である警察の側に向けられる。改造銃を構え、腰のベルトに予備マガジンを大量に仕込んで次々警官をなぎ倒していくリックは、まるで人間ターミネーターだ。射撃の腕は正確無比。相手に銃を向けられても、表情ひとつ変えずに逆に相手の急所を正確に打ち抜いていく。リックの行動は「殺人の快楽」を求める衝動が根底にあるから、たとえその前の警察の挑発が度を超していたにせよ、観客側の共感や応援は得られない。リックは周囲のあらゆるものから孤立し、たったひとりで戦い続ける。彼をただひとり擁護するのは恋人のみ。それだけに、この結末は悲惨すぎる。

 ただし映画としてのバランスは悪い。おそらくこの企画(あるいは脚本)は、リック役にレスリー・チャンを想定しないところからスタートしたのだろう。リックは最初から観客の共感を得られない孤独な性格破綻者として登場し、警察内にもほとんど友人らしい友人がいないという設定になっている。しかしその役にレスリー・チャンが配役されたことで、リックという男は登場した時から観客の注目を集め、彼の行動は少なからず共感を得てしまう。こうした観客側の共感を断ち切るエピソードが、この映画には不足しているのではないだろうか。僕は途中まで、リックが殺人の濡れ衣を着せられているのかと思ってました。性格の偏りは誰にだってある。リックがその「偏り」を踏み越えて向こう側に行ってしまう瞬間が描けると、もっとわかりやすくなったと思う。

(原題:鎗王 DOUBLE TAP)

2002年1月公開予定 シネマカリテ
配給:クライドフィルムズ 宣伝:FREEMAN

(上映時間:1時間34分)

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※レスリー・チャンが演じているのは元警官ではなく、銃のカスタムメーカー(改造専門業者)だと宣伝会社の担当者から指摘がありました。2002.01.09

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