ベン・ハー

2001/11/08 徳間ホール
チャールトン・ヘストン主演、ウィリアム・ワイラー監督の歴史大作。
アカデミー11部門受賞も納得の1959年作品。by K. Hattori

 アカデミー賞11部門受賞という史上最多記録(『タイタニック』はタイ記録)を持つ、ウィリアム・ワイラー監督の歴史スペクタクル映画。主演はもちろんチャールトン・ヘストン。主人公はユダヤ王族の末裔ジュダ(ユダ)・ベン・ハー。ローマ支配下のユダヤで裕福な名門一家の総領として育った彼は、幼馴染みだったローマ総督直属の司令官メッサラに裏切られて奴隷に身を落とす。ガレー船の漕手として3年を過ごした彼は偶然出会ったローマの将軍を助けて彼の養子となるが、生き別れになった家族を探し今や宿敵となったメッサラに復讐するためユダヤに帰国する。クライマックスは戦車競技という形を借りた、メッサラとジュダの死闘だ。ドラマは常にジュダの視点で語られるが、一方でこの映画は、キリストの誕生と共に始まり、キリストの死で終わるキリスト伝でもあるのだ。特にジュダがメッサラへの復讐を遂げた後、彼自身の魂の救済を得るまでの30分ほどは、ほとんど宗教映画じみている。

 物語はジュダとメッサラの再会から本格的に動き始めるわけだが、『セルロイド・クローゼット』の証言によれば、このふたりはかつて同性愛関係にあったのだという。実際にはメッサラの側が、ジュダに対して同性愛的な執着を感じているということなのだろう。ユダヤの律法では同性愛が死に値する罪とされているが、ローマはその点でじつに寛容だった。ジュダは自分の妹をメッサラの花嫁にと考えているらしいが、メッサラは彼女に対してひどく冷たく振る舞う。ジュダはメッサラと男同士の友情を感じていただけだが、メッサラは自分の愛が裏切られたことを根に持って、ジュダとその家族にことさら残忍な仕打ちをするのだ。悲しいすれ違いだなぁ。

 最大の見どころはやはり戦車競技だろう。このシーンは数多くのアクション映画に影響を与えているが、短いカットを大量につないでいくモンタージュ技法が、いかに映画に臨場感や迫力を生み出すかという見本のような名場面。この一連のシーンにはほとんど台詞もなく、音楽もない。戦車が猛スピードで駆け抜けていく地響きのような音、どよめく喚声、風を切る鞭の音、時折聞こえる悲鳴、馬車が粉砕される音など、音についてもかなり入念に設計されているようだ。

 ジュダはメッサラへの復讐に成功するが、それでも彼の心は安まらない。ジュダはあまりにも多くのものを、メッサラとローマに奪われてしまった。それはもはや取り返しがつかないのだ。取り返しのつかない災禍の象徴として現れるのが、ジュダの母と妹が業病(leprosy=ライ病・ハンセン病)にかかったというエピソードだろう。ジュダは病気の母と妹に会おうとしながら、会うことができない。それは病気への差別や相手への思いやりとうこと以前に、耐え難い現実を直視し受け入れることができないというジュダの心の表れなのだ。彼が病気の家族をそのまま抱きしめることができたとき、この物語は事実上終わっていると言ってもいいだろう。

(原題:BEN-HUR)

2002年1月19日より公開予定 ル・テアトル銀座
配給:ワーナー・ブラザース映画

(上映時間:3時間42分)

ホームページ:http://www.warnerbros.co.jp/

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