千年の恋
ひかる源氏物語

2001/10/19 東映試写室
「源氏物語」とその作者・紫式部の生涯を平行して描く大作。
豪華なパッケージだが中身の充実感は感じられない。by K. Hattori

 東映創立50年という記念すべき年の締めくくりに公開される、2時間23分の時代劇大作。「源氏物語」を映像化した例は過去にもあるが、これは小説「源氏物語」の世界とその作者である紫式部の生涯を平行して描いていくのがユニーク。おそらくこの映画は、最初から海外セールスを視野に入れて作っているのだろう。吉永小百合や天海祐希を筆頭とする女優陣、十二単などの華麗な衣装、セットとロケにCGを組み合わせて描かれる平安時代の風景と寝殿造りの広大な屋敷群が、観る者を雅やかで豪華絢爛な平安絵巻の中に案内してくれる。映画全体が醸し出すリッチな雰囲気は、ちょっとご立派。

 しかしこの映画、面白いかと問われると答えに窮する。宝塚の男役だった天海祐希に、平安随一のプレイボーイ光源氏を演じさせるというアイデアは面白い。でもこれは、宝塚総出演で同じ「源氏物語」を映画化した『あさきゆめみし』と同工異曲のアイデアだ。別に本邦初というわけではない。(ちなみに試写室で配られたプレス資料には過去に映像化された「源氏物語」リストが付いているが、そこでは『あさきゆめみし』がすっかり無視されている。宝塚の舞台版は載っているのだから、これは意図的な無視だろうな……。)古典小説を映画化する時、原作者を登場人物のひとりとして紛れ込ませるという手法も新しくはない。例えば最近の映画では、アンジェイ・ワイダ監督の『パン・タデウシュ物語』がこれを効果的に使っていた。こうした作品に比べると、早坂暁が書いたこの映画の脚本はずいぶんと物足りなく思える。

 この映画の利点は、天海祐希主演で「源氏物語」のダイジェスト版が観られるということと、紫式部の生涯をこれまたダイジェスト版で観られることだろう。物語の書き手である紫式部が、自分の書いた物語の中に入り込んで事件の目撃者になるという演出もある。しかしこの映画が行っているのはそこまで。紫式部の生活と「源氏物語」の世界は最後までパラレルに進行するだけで、2つの世界が相互に影響を与えて別の何かが見えてくるという、現実と虚構が拮抗するダイナミズムは感じられない。紫式部は物語を書くことで、何を得ようとしたのか? 式部が書いた物語の世界は、彼女の生活や考え方をどう反映しているのか? 現実と虚構は密接にリンクしており、虚構の世界は現実の写し絵であるはずなのに、この映画からは2つの世界の接点が見えてこない。このあたりは、脚本にさらなる大胆さがほしかった。

 吉永小百合は紫式部の娘時代から晩年までを演じて、まぁ図々しいとも言えるし大したものだとも言える。天海祐希の光源氏は、少女マンガから抜け出してきたような凛々しさでなかなか素敵。高島礼子の桐壺更衣というのも、まずまずのキャスティングだろう。だが常盤貴子の紫の上は、ちょっと違うんじゃないのかな。温室育ちで純情可憐な少女という感じがしないよ。笑っちゃうのは松田聖子演じる揚げ羽の君。なんで彼女が出てくるところだけ、ミュージカル映画になるんだよ〜。

2001年12月15日公開予定 全国東映系
配給:東映

(上映時間:2時間23分)

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