伊能忠敬
−子午線の夢−

2001/09/26 東映第1試写室
江戸中期に正確な測量日本地図を作り上げた伊能忠敬。
忠敬の生真面目で実直な姿を加藤剛が好演。by K. Hattori

 日本で最初の近代測量地図を作った伊能忠敬の伝記映画。主演は加藤剛。下総国・佐原村の名主だった忠敬は家督を長男に譲り、50過ぎの隠居の身となってから江戸の暦学者高橋至時に師事。そこで天文学の知識を学びながら、地球を南北に走る子午線1度の長さを正確に測量するという夢に挑んでいた。より正確な数値を導き出すには、測量地点の南北差をより大きく確保した方がいい。当時の幕府はロシア南下の脅威に対抗するため、蝦夷地と呼ばれた北海道の正確な地図を必要としていた。そこで忠敬は測量や地図製作の費用を自費でまかなうという条件で、東北から北海道にかけての測量旅行にでかけることになる。これがその後18年にも及ぶ、日本全国測量旅行の第一歩となる。

 忠敬の測量の基本は、歩測と磁石と三角法。自分で一歩一歩地面を踏みしめながら、その一歩一歩が地図作りの貴重なデータを生み出していく。曲がり角では方位を計測し、坂道では傾斜角を計測する。こうして集めた数値データを集計することで、きわめて正確な地図を作り出していく。測量方法そのものに新しさや独創性はないそうだが、忠敬のすごさは測量地点を多く取って測量の正確を期したこと。測量自体は小さな地味な仕事だが、それが積もり積もると巨大な大事業が出来上がる。このねばり強さを、映画は忠敬の身体に流れる“農民の血”から生まれたものとして描き出している。

 時代劇に登場する農民というのは、教育もなく財産も持たず、支配者である武士階級から年貢を搾り取られて泣きの涙という印象が強かった。しかしこうした貧農のイメージは江戸時代の実際の農民の姿を反映しておらず、農村の実際の暮らしは現代の我々が想像する以上に豊かだったことが今や明らかになっている。身分制度は必ずしも人間の生き方をがんじがらめにするものではなく、才能と意欲があれば農民から武士に取り立てられることもあった。実際に忠敬は地図作製の功績が認められて士分に取り立てられているし、この映画の中には農民出身の間宮林蔵も登場して農民出身の武士がいたことがより強調されている。こうした農民観の変化は映画『郡上一揆』などでも描かれている。江戸時代の農村というのは、かなりダイナミックな世界だったのです。

 劇団俳優座創立55周年記念作品と銘打っている本作は、主演の加藤剛を筆頭に俳優座の役者たちが大勢出演している。しかし俳優座オンリーというわけではなく、劇団を中心としたキャスティングが行われているということなのだろうか。監督は『鬼平犯科帳』の小野田嘉幹。時代劇慣れした演出ぶりには安定感があり、安心して観ていることができる。時代劇映画としても、かなり格調高いものだ。しかしチャンバラがない時代劇は、時代劇としては本来なら傍流。東映はこの映画の後も『千年の恋/ひかる源氏物語』『化粧師』など時代劇(?)の公開が続くのだが、どれもチャンバラが期待できない傍流ばかり。本格的なチャンバラが観たいけどなぁ……。

2001年11月17日公開予定 全国東映系
配給:東映

(上映時間:2時間7分)

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