ブレス・ザ・チャイルド

2001/09/21 映画美学校第2試写室
キム・ベイシンガー主演のオカルト・スリラー映画だけど……。
これは脚色が悪いんだと思う。つまらない。by K. Hattori

 クリスマスの近づいたある夜のこと。マンハッタンのアパートでひとり暮らしをしているマギーが部屋に戻ると、そこには長らく音信のなかった妹が赤ん坊を抱えて立っていた。だが麻薬中毒の妹は子供のためにも麻薬と手を切れという姉の言葉にヒステリックな反応を示し、乳飲み子のコーディを置いたまま姿を消してしまう。マギーは残された子供を我が子同然に育てるが、この子には軽い自閉症の症状があってマギーを心配させる。6年後、ニューヨークでは6歳の子供ばかりを狙った連続殺人事件が発生。遺体に残された痕跡から、FBIはオカルト殺人と断定して市警に捜査官を送り込んでくる。同じ頃マギーのもとには突然妹が現れ、6歳になったコーディを誘拐同然の手口で突然連れ去ってしまう。

 ヒロインのマギーを演じるのはキム・ベイシンガー。監督は『マスク』『イレイザー』のチャールズ・ラッセル。話の筋立ては「再臨した幼子キリストを悪魔崇拝者たちが誘惑する」というもので、悪魔崇拝グループのリーダーを『ダーク・シティ』のルーファス・シーウェルが演じ、グループから逃れてきた少女をクリスティーナ・リッチが演じている。悪魔崇拝者に対抗するのが、元神学生という異色経歴のFBI捜査官を演じるのはジミー・スミッツ。マギーに事態の真相を教える異端の神父に、名優イアン・ホルムがキャスティングされている。

 この映画には原作の小説があり、おそらくそこには聖書のイエス伝や外典偽典のイエス伝説からの引用、歴史的イエスについての研究成果などが盛り込まれていたのだろう。例えば悪魔崇拝者たちが、12月16日生まれの子供たちばかりを狙うのはなぜか。イエスの誕生日を祝うクリスマスは12月25日なのに、それと9日の誤差がある。これは中世にグレゴリオ歴への改暦があったとき、それまでの暦と10日の誤差が生まれたことと、ユダヤの習慣では日没時が1日の区切りになっていることからの誤差だと思われる。(この計算方法にはそもそも大きな誤りがあるのだが……。)映画はこうした雑学知識を何の説明もないまま捨ててしまったので、ニュータイプのキリスト伝としての面白さはこの映画からまったく伝わってこない。あるのは「悪魔崇拝者たちが生け贄にするために子供たちをさらって殺す」という、馬鹿馬鹿しいほど単純なスリラーの要素だけだ。危機の際に現れては消える守護天使たちの働きも、なんだか便利に使われているだけになっていると思う。

 この映画を観ていると、最近ではアメリカでもキリスト教文化が失われかけていることがわかる。かつては世代や民族を越えて聖書物語はアメリカ人の共通財産だったから、その引用は何の説明もなしに映画に登場してきた。ところがこの映画では、引用元をいちいち説明するし、聖書の記述をなぞるだけの場面でサスペンスを作ろうとしている。カルト集団のリーダーがコーディをビルから飛び降りさせようとするシーンなんて、僕は退屈で死にそうだった。結果はちゃんと聖書に書いてあるよ。

(原題:Bless the Child)

2001年秋公開予定 渋谷東急3他・全国松竹東急系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
宣伝・問い合せ:マンハッタン・ピープル

(上映時間:1時間47分)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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