冷静と情熱のあいだ

2001/08/27 東宝第1試写室
竹野内豊とケリー・チャン主演のラブストーリー。
終盤は泣けて泣けてしょうがない。by K. Hattori

 映画マニアや批評家の中には、テレビドラマをバカにする人が少なくない。映画をけなす時の決まり文句のひとつは「テレビドラマみたい」というものだ。この言葉の中には、もちろん「テレビは映画より一段も二段も下の存在だ」という差別意識がある。でも映画をきちんと観ている人なら、今は映画よりひょっとしたらテレビドラマの方が面白いと知っている。僕はテレビをほとんど見ないが、それでもテレビドラマの演出家が映画監督として映画を作った時、その完成度の高さに驚かされることは多い。今回『冷静と情熱のあいだ』観て大いに感動した僕は、監督がフジテレビでずっとドラマを演出してきた中江功という人だと知って驚いた。中江監督は、映画監督としてはこれがデビュー作になるという。

 江國香織と辻仁成による原作小説を、竹野内豊とケリー・チャン主演で映画化したラブストーリー。原作はふたりの著者がふたりの主人公それぞれの立場からひとつの物語を綴っていくという構成だったそうだが(原作は未読)、映画は主として竹野内豊が演ずる阿形順正の立場から語られていく。フィレンツェで美術品の修復士として働く順正は、大学時代の友人から、かつての恋人あおいがミラノで暮らしていると知らされる。彼女と気まずい別れをした後、ずっと忘れられずにいた順正はすぐにミラノに行くが、そこで再会したあおいは恋人と幸せな同棲生活をしていた。働いていた工房が閉鎖されたこともあり、順正は日本に帰ることにする。物語はここから回想シーンなどをはさみながら、10年に渡る順正とあおいの恋の軌跡を描き出していく。

 この映画の中には、誰もがたどる恋のプロセスが全部収まっている。出会いのときめき。初デートの緊張感。初めてのキス。幸せが永遠に続くかに思える恋の喜び。そして苦い別れ。別れた後も心の底に残る愛の甘美な記憶。未練を断ち切るように始める新しい恋。偶然の再会。忘れたはずの愛が心の中に蘇る。色あせていく新しい恋人との関係……。二十歳で出会った恋人たちの10年を描いているが、二十代の10年ほど、人間の人生の中で変化が激しい時はないだろう。この物語は人生を模索し、自分の道を切り開いていく青年の葛藤ともがきを、うまく恋愛ドラマと組み合わせていると思う。主人公たちは別れた後にそれぞれの人生を歩み、その中で自分たちの中に残る愛を少しずつ深めていくのだ。

 竹野内豊は感情の機微を細かなニュアンスで演じ分けるような俳優に見えないが、一見無表情に見える彼の姿に、観客のいかなる思い入れも受け入れてしまう器の大きさを感じさせる。状況さえ許されれば、彼は大スターになれるだろう。ケリー・チャンはこの映画では受け身の芝居が多いが、それでもスター女優のオーラで役を大きく見せている。2時間4分もある映画だが、映画の後半30分ぐらいはずっと涙目モードに突入。さんざん結末を後ろに引っ張ったあげく、スッパリと物語を断ち切って余韻を残すエンディングも見事。これは傑作です。

2001年11月10日公開予定 全国東宝系
配給:東宝
(上映時間:2時間4分)

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