陰陽師

2001/08/27 東宝第1試写室
夢枕獏の人気シリーズを野村萬斎主演で映画化。
アクション満載のファンタジックな平安絵巻。by K. Hattori

 夢枕獏の原作を野村萬斎と伊藤英明主演で映画化した、平安王朝オカルト・アクション映画。監督は『お受験』『秘密』の滝田洋二郎。主人公である安陪晴明は歴史上に実在した陰陽師だが、神秘的な数々の逸話が現代まで伝えられている謎めいた人物。この映画はそんな晴明の活躍を、スピーディーな現代的テンポで描いたニュータイプの王朝時代劇だ。都大路に鬼や物の怪が徘徊し、呪術や風水の不思議なパワーが人々の生活を満たしていた時代を、特撮や特殊メイク、CGやデジタル合成などの最新技術を使って映像化している。衣装やメイク、怪物のデザインなどを天野喜孝が担当し、最新のデジタル映像世界と平安絵巻の世界をうまく結びつけることに貢献している。だがこの映画でもっとも注目すべきは、やはり主演の野村萬斎だろう。原作者のたっての願いで実現したキャスティングだというが、これによって晴明はうまく物語にはまっているんだかはまっていないんだかわからない、摩訶不思議なキャラクターになっている。

 この映画のキャスティングの中では、野村萬斎だけが明らかに異質なのだ。周辺の他のキャスト、例えば伊藤英明、真田広之、今井絵理子、小泉今日子、夏川結衣、宝生舞、柄本明、岸辺一徳といった人物は、この映画の中でも現代劇のような芝居をしている。もちろんそこに時代劇の約束事は存在するが、こうした人物達が作り出す世界は21世紀の我々にもなじみ深いものであって、いわば平安時代を舞台にした現代劇だ。矢島健一、螢雪次朗、下元史朗、木下ほうか(なんと天皇役!)といった脇役たちも、千年も昔の平安王朝絵巻に現代人の体臭を刷り込んでいる。しかしここに登場する野村萬斎は、明らかにこうした俳優達とは一線を画しているのだ。狂言の世界で鍛え上げた身のこなしや立ち居振る舞い、そして腹の底から身体全体を共鳴させるように発せられる声。こうした野村萬斎の存在感は、この映画の中ではひときわ大きな違和感を感じさせる。主人公が周囲の世界から浮き上がっている。主人公がこの世界の中で異物になっている。しかしこの違和感や異物としての存在感が、この映画全体に一本筋を通しているのだ。彼が存在しなければ、この映画はちゃらちゃらした時代劇ゴッコに終わってしまったかもしれない。

 そのそもこの物語の中では、安陪晴明という人物自体が異物なのだ。他の陰陽師たちとは共同歩調をとらない一匹狼。都のはずれのあばら屋で式神たちと暮らし、都の政治情勢などどこ吹く風。出世や栄達にも興味がない。人間の世界よりむしろ仙界の住人とでもいった雰囲気は、母親が狐だという噂話にもある種の説得力を生み出す。そんな安陪晴明は、画面に登場したとたんに、映画を観る人たちに「こいつは他の人間たちとはぜんぜん違う」と納得させられる個性を持っていなければならない。その点で、この映画の野村萬斎はパーフェクトだろう。晴明の相棒を演じる伊藤英明の現代っ子丸出しキャラクターや、ライバル道尊を演じた真田広之との対比もいい。

2001年10月6日公開予定 全国東宝系
配給:東宝
(上映時間:1時間56分)

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