アメリ

2001/08/22 徳間ホール
『ロスト・チルドレン』のジャン=ピエール・ジュネ監督の最新作。
モンマルトルを舞台にした傑作ファンタジー。by K. Hattori

 マルク・キャロと共同監督で『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』を作り、その後『エイリアン4』でハリウッドに渡ったきり消息を絶っていたジャン=ピエール・ジュネ監督の最新作。ハリウッドからフランスに戻って再びキャロと組むのかと思ったら、今回はジュネ監督単独の作品になっている。そのせいか『デリカテッセン』や『ロスト・チルドレン』のようなグロテスクさは影を潜め、明るく快活な映画になっている。グロテスクで薄気味の悪いジュネ&キャロ作品が好きだった人は、今回の映画にちょっと戸惑うかも。

 タイトルの『アメリ』というのは主人公の女の子の名前。ふとしたきっかけで人々を幸せにしてあげる使命感に目覚めたアメリが、中年男に少年時代の夢を思い出させ、孤独な男女を引き合わせて愛を芽生えさせ、盲目のホームレスに世界の美しさを伝え、愛のない不毛な世界に住んでいる女性に愛を取り戻させる。それは善意の押しつけであり、アメリは作為と演出に彩られた幻想の幸福を振りまいているだけかもしれない。でもこの映画が嫌らしく見えないのはなぜなのか。それは現実のこの世の中が、辛く苦しい世界に他ならないからです。ありのままの現実をそのまま受け入れて生きるには、この世はあまりにも悲しすぎる。だから人間は幻想にすがって生きる。それは現実逃避かもしれないけれど、現実と向かい合って不幸に生きるのと、幻想(ファンタジー)の中で幸福な人生を味わうのとでは、どちらが有意義な人生だろうか。アメリ自身、幼い頃から世の辛酸をなめてきた。その上で彼女は、辛い現実を幻想に置き換えてサバイバルする知恵を身につけたのです。

 主人公アメリを演じているのは『エステサロン/ヴィーナス・ビューティ』で最年少の美容師を演じていたオドレイ・トトゥ。もともとこの役は『奇跡の海』『アンジェラの灰』のエミリー・ワトソンで想定されていて、映画のタイトルも『エミリー』だったのだとか。それが諸般の事情でワトソンが降板し、急遽代役になったのがトトゥ。しかしヒロインの名前はそのまま、エミリーをフランス語読みに直してアメリになったらしい。映画を観ると、この役はオドレイ・トトゥ以外では考えられないように思う。たぶん主演がエミリー・ワトソンだったら、これとはまったく違った映画になっただろう。共演者もかなり豪華。証明写真のコレクター、ニノを演じているのは、映画『クリムゾン・リバー』の監督でもあるマチュー・カソヴィッツ。アメリが勤めるカフェの常連客役に、ジュネ作品の常連であるドミニク・ピノンの顔が見えるのも嬉しい。他の出演者もみんないい顔だ。

 雲が動物やぬいぐるみの形になり、壁の絵が動き出すなど、CGやデジタル処理を使って現実とファンタジーを巧みに融合させている。スタジオ撮影で虚構の世界を完璧に作り上げるジュネ監督は、この映画で現実のパリを、ノスタルジーと情緒あふれるファンタジックな異世界に作り替えた。一度観るともう一度観たくなる映画だ。

(原題:Le Fabuleux destin d'Amelie Poulain)

2002年正月公開予定 シネマライズ
配給:アルバトロス・フィルム
(上映時間:2時間1分)

ホームページ:http://www.amelie-movie.com/

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