タイガーランド

2001/08/21 20世紀フォックス試写室
負け戦とわかっているベトナム戦争に向けて訓練を繰り返す新兵たち。
主人公ボズを演じたコリン・ファレルがなかなか。by K. Hattori

 1971年のアメリカ。政府はベトナム戦争から手を引く時期を探りながら、休戦のための具体的なプランを出せず、なし崩しに戦争を長引かせていた。国内外では平和運動や反戦運動が、世論の後押しを受けて盛り上がっている。「ニューヨーク・タイムズ」は国防省秘密報告書の内容をすっぱ抜いて、政府が宣伝するベトナム戦争の虚像をはぎ取ってしまう。ベトナム戦争におそらく勝利はないだろう。アメリカは建国以来初めての敗戦に向かって進んでいる。そんなことは、多少知恵のあるアメリカ人なら誰だってわかっていることだった。だがそれでも軍隊は存在する。国内の軍施設では、ベトナムに送り込まれる新兵たちの訓練が繰り返されていた。『タイガーランド』はルイジアナ州の新兵訓練施設を舞台に、間もなくベトナムに送り出される若者たちの成長ぶりをえがく青春群像ドラマだ。厳しい訓練を積み、精神的にも肉体的にも未熟な若者たちは一人前の兵士へと成長していく。仲間同士の対立や葛藤を乗り越え、同じ兵舎に寝泊まりし、同じ釜の飯を食った仲間としての絆が強まっていく。しかし彼らが成長することは、それだけ彼らが死に近づくことに他ならない。たくましい男に成長した新兵たちが、戦場という巨大な暴力装置の中に否応なしに追い込まれていかなければならない不条理。

 「兵隊も戦争も御免だ!」と教官や他の新兵に悪態をつくボズという兵士が主人公。彼は上官たちから徹底的にマークされているが、彼自身は訓練をさぼるわけでも逃げ出すわけでもない。じゃあ口先だけの男なのかというとそうでもなく、仲間たちの窮状を見かねると、軍規の抜け道をアドバイスして除隊への道を作ってやる。負け戦の軍隊という割の合わない状況の中で、自分の言葉と行動にどこか一本筋を通しているのだが、それがどんな行動原理によるものなのかはよくわからない。演じているのはコリン・ファレル。『素肌の涙』や『私が愛したギャングスター』に出演していたらしいが、あまり印象に残っていない。しかし本作の彼は、内面に幾多の矛盾を抱えたボズというキャラクターを見事に演じて、多数の登場人物がひしめき合うこの物語を強力にまとめ上げる求心力になっていると思う。今後の注目株だ。

 監督は『依頼人』『バットマン&ロビン』のジョエル・シューマカー。ラース・フォン・トリアーらが提唱する「ドグマ」の手法に刺激されたというこの映画は、『π』『レクイエム・フォー・ドリーム』のマシュー・リバティックを撮影監督に招き、手持ちの16ミリカメラを多用してドキュメンタリー風のざらついた映像を作っている。『タイガーランド』自体はドグマ作品としての基準を満たしていないが、とかく大規模になりがちなハリウッド流の映画撮影スタイルを見直したことで、映画に生々しい臨場感が生まれているのだ。

 この映画にベトナム戦争そのものは登場しない。しかし本作は戦争と国家と個人の葛藤や矛盾を巧みにあぶり出し、第一級の反戦映画になっていると思う。

(原題:TIGERLAND)

2001年10月上旬公開予定 シャンテ・シネ
配給:20世紀フォックス
(上映時間:1時間41分)

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