ターン

2001/08/15 メディアボックス試写室
交通事故がきっかけで同じ1日を繰り返すヒロインの運命は?
牧瀬里穂が新しい魅力を開花させたファンタジー映画。by K. Hattori

 北村薫の同名小説を、『学校の怪談』シリーズや『愛を乞うひと』の平山秀幸監督が映画化。主演は牧瀬里穂と中村勘太郎。普段は近所の版画教室で講師をしている27歳の森真希は、長年の夢だった銅版画家への道を一歩踏み出したばかり。だが6月のある日、教室に向かう途中で真希の運転する自動車はトラックと正面衝突事故を起こす。だが気が付くと真希は病院のベッドではなく、ちょうど1日前の自宅で目を覚ました。一体何が起きたのか。事故に遭ったことは夢だったのか。自転車で家の外に出た彼女を待っているのは、普段と何の変りもない町の姿。だがそこには人っ子ひとりどころか、生き物の姿がまったくなくなっていた。そしてそれから24時間後、前日に事故に遭ったのと同じ時刻になると、真希は再び24時間の時間を引き戻され、同じ1日を繰り返すことになる。永久に終わることのない1日。永遠に続くかもしれない静寂。だがそれは1本の電話で破られる。

 同じ1日が何度も何度も繰り返されて、主人公がそこから脱出しようと四苦八苦するという話は、ハロルド・ライミスの傑作コメディ『恋はデジャ・ブ』を思い出させる。でも『恋はデジャ・ブ』の主人公周辺には、町の人々もいれば職場の同僚もいた。主人公は繰り返される日常にウンザリしながらも、そこで出会う人々との人間関係を失うことはなかった。しかし『ターン』のヒロインは広い世界にひとりぽっちなのだ。泣いても叫んでも、それに答えてくれる人は誰もいない。衣食住のすべてが満たされても、主人公の心は満たされない。ある日突然世界中から人が消えてしまう不気味さは、映画『ディアボロス』のクライマックスにも登場した。この映画でも無人の街をひとりで歩くヒロインの姿が何度か出てくるが、最新のデジタル技術をたっぷり使ったであろうその映像はかなりシュール。物はあふれているのに、生活にはまったく不自由しないのに、それでもヒロインを打ちのめしている絶望的な孤独がひしひしと伝わってくる。

 牧瀬里穂は明るい現代っ子を演じることが多かったのだが、この映画では少し成長した大人の女を感じさせる。ヒロインと唯一電話で話すことになる中村勘太郎は、牧瀬里穂より10歳も年下。年は若くてもしっかり者の好青年という感じだが、肝心なところでちょっと頼りなさそうに見えるのがいい。上司役の大ベテラン柄本明との対比が、勘太郎の若造ぶりを強調する。映画はこのふたりの魅力が占める比重がかなり大きい。しかしそこからベタベタした男女のラブストーリーには流れないのは、牧瀬里穂の方が中村勘太郎より年上だからだろうか。

 映画の中で一番感動的なのは、「お風呂を出たらなに人ですか?」と、ヒロインが電話で母親と話すところ。ただし終盤はいまひとつ盛り上がりに欠ける。これは「彼女は一体どうなってしまうのか?」というミステリー要素が薄れてしまうことが一番の原因だろう。ラストシーンも、観客の予想する範囲内に収まった描写になっているのは残念。ここは演出に一工夫ほしかった。

2001年10月13日公開予定 全国ワーナー・マイカル・シネマズ
配給:アスミック・エース
(上映時間:1時間51分)

ホームページ:http://www.asmik-ace.co.jp/

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ