どんてん生活

2001/08/15 映画美学校第2試写室
夢も希望もなければ挫折も破綻もないぼんやりした青春。
毎日を無目的に生きる若者ふたりをリアルに描写。by K. Hattori

 開店前のパチンコ屋前で出会ったイケてない若者ふたり。時代と隔絶されたようなリーゼントスタイルに真っ赤なカーディガン、姉さんサンダルをひっかけて寒そうに震える紀世彦。彼に職業を聞かれて「フリーターです」と眠そうな目で答える努。現在仕事がなくブラブラしているという努を、紀世彦は自分の仕事に誘うことにする。万年ゴタツとゴミの山の片隅で行われているのは、裏ビデオのダビングという怪しげな作業だった。

 タイトルの『どんてん生活』とは「曇天生活」という意味。空は厚い雲に覆われて太陽は顔を見せず、かといって土砂降りの雨が降るというわけでもないうっとうしい天気。風は時に冷たく、時に生ぬるい。雨がぱらついてもすぐに上がる。晴れればやりたいことも行きたいところもあるだろう。雨が降ればその対策を考えるだろう。でも曇り空ではすべてがとりあえずの現状維持で過ぎていく。気分的にすべてが中途半端な状態だ。それが『どんてん生活』……。映画はひたすら貧乏くさく、しかも怪しげだ。主人公たちふたりの現金収入は、裏ビデオのダビングとパチンコに依存している。とてもまともな生活とは言えないし、ふたりともはなから自分たちの生活がまともだとは思っていないだろう。でもそれで誰に迷惑をかけるでもなく生活できるんだから、他人に文句を言われる筋合いもない。自分たちさえそれに納得できれば、それでいいじゃないか。今の生活が立ちゆかなくなれば、それはその時また考えればいい。

 主人公ふたりがとんでもなくバカ。およそメジャーな映画の主人公にはなれそうもない貧乏くさい男たちを、徹底してリアルに描いてしまえるのはインディーズ映画ならではだろう。このふたり、魅力的だとはまったく思えないんだけれど、映画を観ている人を妙に惹き付ける人間くささがある。これは「人間的な魅力」ということではない。魅力じゃなくて、体臭みたいなものだ。こういう人が確かにいて、確かに息をしているというリアリティ。僕はリーゼント男の友人も裏ビデオ商売の知り合いもいないけれど、この映画の主人公たちは圧倒的な存在感で自分自身のあり方を自己主張する。僕自身はこんな貧乏くさい映画は嫌いだ。でもついつい思わず観てしまう。「どうなっちゃうんだろうな、こいつら」と他人事ながら心配させてくれる連中なのだ。

 一時期「モラトリアム」という言葉が流行ったことがある。青春期に何をするでもなく無目的に生きているように見えても、それは自分の本当の生き方を探し大人に成長するためのステップだとする考え方がある。でもこの映画の主人公たちは、将来何者かになるために現在のモラトリアムを決め込んでいるわけではない。紀世彦も努も、最初から何者かになることを諦めている。いや諦めているわけではなく、最初から何者かになろうなどと考えてもいない。紀世彦の夢は暴走族のヘッドで、努の夢はパチンコで大勝ちして女の子にいいかっこすることだったりする。こいつら本当に大バカ。でも憎めない。

2001年10月下旬公開予定 ユーロスペース(レイト)
配給:スローラーナー
(上映時間:1時間30分)

ホームページ:http://www.mctheater.com/

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