スキゾポリス

2001/08/09 アップリンク・ファクトリー
スティーヴン・ソダーバーグが'96年に製作したはちゃめちゃ映画。
ソダーバーグ本人が一人三役の怪演を見せる。by K. Hattori

 スティーヴン・ソダーバーグ監督が『アウト・オブ・サイト』を撮ったとき、「今までと随分作風が違うな」と思った。『セックスと嘘とビデオテープ』や『KAFKA/迷宮の悪夢』の監督がスター俳優主演のキャッチーなラブコメを撮るなんて、一体全体どんな風の吹き回しなんだろうか。その後『イギリスから来た男』や『エリン・ブロコビッチ』があり、昨年の『トラフィック』でソダーバーグはついにアカデミー賞を受賞してしまう。もともと力のある監督ではあったのでしょうが、彼が映画作家としての立場を一気にメジャー寄りにしていく課程にどんな心境変化があったのかは、以前からすごく気になるところだった。今回公開される『スキゾポリス』は、ソダーバーグ監督が大変身する『アウト・オブ・サイト』の直前に撮られたコメディ映画。これを観てようやく僕は、「なるほどこれでソダーバーグは変ったのだ」と心の底から納得することができた。

 この映画はソダーバーグの個人的趣味を極限まで突き進めた、奇妙奇天烈な実験映画なのだ。25万ドルという低予算で徹底的に商業的映画文法を無視したこの映画は、当然のように映画興行界から完全に無視されてしまったらしい。でもここまで好き勝手ができれば、映画作家としては本望でしょう。僕はこれを自己満足だと思うけれど、自己満足のいいところは、少なくとも「本人だけは満足している」という点にある。つまらない商業映画の企画に手を出して、出資者も製作者もスタッフも出演者も観客も満足できない映画を作るよりは、少なくとも監督だけでも楽しめる映画を作った方がましだ。ソダーバーグはこの映画の製作を通じて、自分がなぜ映画を作り続けるのか自問自答していたに違いない。その結果が『アウト・オブ・サイト』になる。ソダーバーグ監督にとって『スキゾポリス』は、北野武監督における『みんな〜やってるか!』と同じようなものだ。北野武は『みんな〜やってるか!』をビートたけし名義で監督していることと、『スキゾポリス』にエンドクレジットが1コマしかないことには何か符合があるような……。

 「イベンジャリズム」を標榜する出版カルト団体の職員として教祖の演説原稿を書くフレッチャーという男、その妻、彼女と不倫関係にあるコーチェクという歯科医の3人が主人公で、それぞれの立場から同じ話が語られていく。ただし描かれている範囲は少しずつ異なり、登場人物も少しずつ違っている。フレッチャーとコーチェクを一人二役で演じているのはソダーバーグ監督本人で、彼はこの他にも深夜のカフェに突然現れるフランス男というキャラを演じている。別段メイクをしたり扮装に趣向を凝らしているわけでもないので、この役割分担が非常にわかりにくい。(プレスの記述が既に混乱している。)しかしこの一人二役によって、日常生活空間の中にパラレルワールドのような異世界が出来上がる面白さがある。娯楽映画路線を突っ走る最近のソダーバーグしか知らない人には、ショッキングな映画だと思う。

(原題:SCHIZOPOLIS)

2001年10月20日公開予定 アップリンク・ファクトリー
配給:ザジフィルムズ
(上映時間:1時間33分)

ホームページ:http://www.zaziefilms.com/

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