大河の一滴

2001/07/19 東宝第1試写室
五木寛之のベストセラーを神山征二郎監督が安田成美主演で映画化。
真面目な映画だけどヒロインにまったく共感できない。by K. Hattori

 人気作家・五木寛之の同名エッセイをもとに、原作者自らがオリジナルストーリーを作り、それを大ベテランの新藤兼人が脚色し、良心的な映画作りで評価の高い神山征二郎監督が映画化した人間ドラマ。友人の経営する輸入雑貨の店で働いている小椋雪子は、商品買付のため数ヶ月まえにロシアで出会ったニコライという青年が、オーケストラのオーディションを受けるため日本を訪れていることを知る。彼の本職はミュージシャンだが、生活費を稼ぐため日本人相手の通訳兼ガイドをしていたのだという。だがニコライはオーディションに落選してしまい、雪子は彼を慰める言葉もない。そんな彼女に、郷里金沢で父が倒れたという知らせが届く。検査の結果、父の病気は末期の肝臓癌だとわかる。余命はあと数ヶ月。雪子は東京での仕事を諦めて、金沢で父の身の回りの世話をしようと決意。地元には幼なじみの昌治がおり、互いに憎からず思っている仲だ。雪子は昌治の紹介でニコライに金沢のオーケストラを紹介し、彼がやってくるとあれこれと世話を焼き始める。

 主人公の雪子を演じているのは安田成美。幼なじみの昌治役は渡部篤郎。ニコライを演じているのは実際にトランペッターでこれが映画初出演のセルゲイ・ナカリャコフ。雪子の両親を三國連太郎と倍賞美津子が演じている。ひとりの女性を中心に、恋愛や家族や歴史や死の問題について描いた映画。テーマはどれも普遍的なものだ。しかし僕にはこの映画が何を訴えようとしているのか、ついに最後までわからなかった。映画の中では主人公たちの年齢が明言されていないが、これは演じている俳優達の実年齢を参考にして構わないだろう。安田成美は僕と同じ昭和41年生まれで今年35歳。渡部篤郎は昭和43年生まれで今年33歳。同じ30歳代半ばの僕なのに、僕はこの映画にひどく距離感を感じる。

 多分僕はこの映画のヒロイン雪子に共感できないのだ。彼女は30代半ばになっても、自分が何をやりたいのか、何を求めているのかわからない。仕事にやりがいを感じてはいる。でも会社がなくなっても大して動揺していないところを見ると、この「仕事」に彼女が情熱を傾けていたわけではないことがわかる。仕事は彼女が東京で暮らすための方便です。彼女は東京で暮らすことで、自分が何かしらの輝きを得られると思っている。それは錯覚だし思い違いなのですが、その同じ錯覚と思い違いが、若いロシア人音楽家ニコライの応援という面でも現れる。「東京で暮らしている自分」「ロシア人音楽家を応援している自分」というセルフイメージに、自分自身で酔っている雪子というヒロインは、正直言ってかなりみっともない。そのみっともなさをついに最後まで自覚していないヒロインに、僕はまったく共感できません。

 彼女がどこかで「馬鹿な私」「みっともない私」「他人に頼ってしか生きられない私」に気づけば、この物語はそこから別の展開になるんでしょうけれど……。

2001年9月1日公開予定 日劇東宝他・全国東宝系
配給:東宝
(上映時間:1時間53分)

ホームページ:http://www.toho.co.jp/movie-press/taiga/welcome-j.html

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