ペイネ・愛の世界旅行

2001/07/13 日本ヘラルド映画試写室
人気画家レイモン・ペイネの世界を長編アニメーション化。
物語に色気がある。かわいくてちょっと切ない。by K. Hattori

 フランスの画家レイモン・ペイネが描く有名な「恋人たち」を主人公にした、1974年フランス・イタリア合作の長編アニメーション。ペイネは日本でも人気がある画家で、テレビCMにも恋人たちの姿が登場するし、軽井沢にはペイネの作品を集めた専門の美術館もある。映画はペイネの描く恋人たちが「愛と平和」を求めて世界中を旅するファンタジックなロードムービーで、劇中に登場するさまざまな人物やサイケデリック調のデザインなどが'70年代という時代を強く意識させる。今回公開されるのは英語吹き替えのインターナショナル版だが、この吹き替えの質があまりよくなくて全部の台詞が棒読み。アニメーションの技術も今に比べると拙いので、登場するキャラクターの芝居もそれほど芸があるわけではない。しかしこの映画は絵と台詞の情感不足を、すべて音楽で補ってしまう。テーマ曲の作曲はエンニオ・モリコーネ。それを変化自在に展開していくのはアレッサンドロ・アレッサンドローニ。これは音楽だけで泣けます。

 絵を見れば誰でも見覚えのあるペイネの恋人たちだが、その名前がバレンチノとバレンチナだとは知らなかった。これは恋人たちの守護聖人である聖バレンタインから取られた名前で、世界中の恋人たちを代表するふたりにこれほどふさわしい名前はない。ふたりが最初に旅するのは、2千年前のベツレヘム。イエスの生誕に立ち会ったふたりは、そこから戦火のバルカン半島へ。ヨーロッパ各地を回り、北極回りで日本を訪れ、南北アメリカ大陸を縦断して最後はパリへと戻ってくる。はたしてふたりは、愛と平和を見つけることができるのか?

 紛争や飢餓や核爆弾の炸裂などがハイコントラストの映像でコラージュされる中を、手をつないで駆け抜けていく恋人たちのシルエット。そんなオープニングから始まるこの映画は、この世界の残酷で厳しい現実の中に、世界を救うような愛も平和も見いだすことが難しいという現実を見せつける。では愛も平和もこの世界には存在しないのか? いやある。それは恋人たちのベッドの中にだけ存在するのだ……、という結論はいかにもフランスらしくて僕は好きだ。シニカルなハッピーエンド。でもこれが多分、真実なんじゃなかろうか。

 西洋絵画や美術からの引用が多くて、少しでもそうした知識があるとそれだけで楽しめる映画になっている。例えば最初に登場するマリアとヨセフは天使のような光る輪を頭に乗せているけれど、これはヨーロッパのキリスト教美術ではごく当たり前の表現。それをぬけぬけと引用してくるのが面白い。ダ・ビンチ、ロートレック、レンブラント、ブリューゲルなど、地域や時代をまたいでいろいろな美術作品が引用されていく。その一方でエリザベス女王やニクソンやブレジネフや毛沢東などが登場する国際政治のパロディもある。古典的な美の世界と現実の生臭い世界の間を、ペイネの恋人たちが駆け抜けていくというコンセプトが明快。でもこんなにストレートな表現は、今となっては少し気恥ずかしいくらいだ。

(原題:IL GILO DEL MONDO DEGLI INNAMORATI DI PEYNET)

2001年今秋公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給・問い合わせ:H&Mインコーポレーテッド 宣伝:ミラクルヴォイス

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