エレベーター

2001/06/12 日本ヘラルド映画試写室
古いエレベーターに閉じこめられた男と彼を監視する女。
トルコ生まれのエンタテインメント・ムービー。by K. Hattori

 トルコという国の存在を知らない日本人はいないが、トルコという国が具体的にどんな国なのか答えられる日本人は少ない。僕もトルコについてはまったく不案内。トルコと聞いて思い出すのは「トルコ風呂」なのだが、これはもう既に死語ですね。あとはベートーベンやモーツァルトの「トルコ行進曲」やトルコの軍楽隊などを連想する。現在のトルコ共和国は、中東イスラム圏に属しながらも西欧的な政治制度と文化を持った近代国家になっているらしい。それはこの映画からもうかがえます。トルコと聞いて日本人が思い浮かべるエキゾチシズムやオリエンタリズムのにおいは、この映画からまったくうかがうことができない。それは現在の日本映画の中に、エキゾチシズムやオリエンタリズムがないのと同じです。

 スキャンダル暴露が売りのテレビ番組「衝撃の真実」の人気レポーターが、インターネットで知り合った女に会いに行く途中、エレベーターの故障で中に閉じこめられてしまう。現れた女はそんな彼に食べ物やトイレを差し入れるが、エレベーターの中から助け出してはくれない。いったい彼女は何を考えているのか? レポーターはエレベーターの中の鏡に向かって無意味な自問自答を繰り返し、何とか外部と連絡を取り脱出しようと四苦八苦する。だがそうした彼の苦労は、すべて徒労に終わる。このエレベーター故障は事故ではなく、周到に仕掛けられた罠だったのだ。エレベーターにはカメラとマイクが隠されていて、閉じこめられた男の様子を逐一モニターできるようになっている。女は仲間の男たちふたりと共に、少し離れた別の部屋の中でレポーターの様子を見てほくそ笑む。彼女たちの目的は何か? はたしてレポーターはエレベーターから脱出できるのか?

 映画は足かけ4日間に渡るレポーターと女の駆け引きを描きつつ、女がなぜ彼をエレベーターに閉じこめっぱなしにしているのかという謎にも迫っていく。エレベーターの中から外部に連絡を取ることは一切できないが、レポーターの行方不明事件が社会にどんな影響を与えているかなど、エレベーターの外で起きていることはテレビを通じて逐一レポーターに情報が届けられる。普段は情報を発信する立場にいる者が、情報発信の手段を奪われて、徹底的に受動的な立場に追いやられるという逆転の構図は面白い。男が女を監禁したら「変態野郎の猟奇事件」だが、女が「エレベーターの故障」というアクシデントを使って男を監禁すると、あまり変態チックなにおいがしない。これも意外な発見だった。

 アイデアや描写に魅力的なものをたくさん持っている映画なのだが、終盤の種明かしがいまひとつ鮮やかさに欠ける。彼女がレポーターを監禁した理由はわかる。でも「普通そこまでやるか?」「やらね〜よ!」と観客の大部分は思うんじゃないだろうか。彼女がこうした行動を取るまでに追い込まれてしまった理由に観客が共感できないと、彼女の行動は独りよがりな正義感の暴走ということになってしまうような気がする。

(原題:ASANSOR)

2001年8月20日公開予定 俳優座トーキーナイト
配給:クライドフィルムズ 宣伝:FREEMAN

ホームページ:http://www.the-elevator.com/



ホームページ
ホームページへ