不思議惑星キン・ザ・ザ

2001/05/28 メディアボックス試写室
旧ソ連時代に作られた奇妙奇天烈なカルトSF映画。
「クー!」という挨拶は忘れられない。 by K. Hattori


 1986年、ペレストロイカ期のソ連で作られたSF映画。といっても『2001年宇宙の旅』のような本格派ではないし、『スター・ウォーズ』のような活劇でもなく、『未知との遭遇』のようなファンタジーでもない。これはSFという形式を借りた不条理劇。映画全編がナンセンスなギャグとトホホ感で埋め尽くされ、観客はガックリ脱力して「ふぇふぇふぇふぇふぇ」と奇妙な笑い声を上げるというカルト映画だ。「ソ連=官僚国家」「ソ連=統制経済」「ソ連=秘密警察」というお堅くて暗くて恐ろしいイメージを持っている人は、この映画を観て「なんじゃこりゃ〜!」と腹を撃たれたジーパン刑事のような(例えが古すぎ)驚きの声を上げるだろう。もっとも今はソ連のイメージ自体が忘却のかなたにあるので、僕はあまりギャップを意識しなかったけどね。

 モスクワで暮らす中年の技師マシコフが、夕食の買物のため外に出たことから物語が始まる。グルジア人の青年に「あそこにいる人が自分は宇宙人だと言ってるんですが」と声をかけられたマシコフは、街頭でふるえるホームレスと話をする羽目になる。「この星のクロスナンバーは何ですか。それがわかればこの空間移転装置でもとの星に戻れるんですが……」とわけのわからない話をする男。これを頭のおかしな男の妄想と考えたマシコフは、差し出された小さな装置のスイッチを無造作に押してしまう。次の瞬間、マシコフと青年は広大な砂漠のど真ん中に立っていた。瞬間移動? まさか! 別の星に来た? いや、ここはソ連のどこかに違いない! だがマシコフと青年の目の前に降り立った不思議な乗り物から降りてきた男ふたりは、「クー!」と叫びながら奇妙奇天烈な踊りを始める。わけわからんなぁ……。

 この映画の面白さは、描写の唐突さと意外さにある。モスクワの街頭に現れた宇宙人が、道行く人に案内を乞うという設定もかなり唐突だし、モスクワの繁華街から突然砂漠のど真ん中に瞬間移動してしまうという展開も相当なものだ。初めて出会った異星人たちはいきなり大道芸を始めるし、彼らには英語もドイツ語もトルコ語も通じないのに、なぜかロシア語とグルジア語はペラペラだったりする。異星人たちは高度なテクノロジーを持っていながら、なぜかマシコフの持つマッチに目の色を変えるという設定もおかしいったらない。

 全体にあまりお金がかかっていそうもない映画なんだけど、登場する小道具類が凝りまくっていて奇妙な現実感がある。ガラクタ同然の小道具に徹底的な汚しが施されていて、いかにも「使い込まれてます」という感じがするのだ。しかしそれがなぜどんな目的で使われているのかはさっぱりわからない。どんな理屈で動作するのかもわからない。でもちゃんと「使い込まれてます」と自己主張する道具たち。ヘンテコな映画です。

 この映画の砂漠のシーンは、セドリック・クラピッシュの『パリの確率』の元イメージになっていると思う。この映画のファンは、世界中にいるらしい。

(原題:KIN-DZA-DZA!)

2001年7月21日公開予定 ユーロスペース(レイト)
配給・問い合わせ:パンドラ
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