夏至

2001/05/24 メディアボックス試写室
ハノイに暮らす三姉妹それぞれの家庭と生活を描くホームドラマ。
グリーンを多用した色彩の鮮やかさにウットリ。 by K. Hattori


 『青いパパイヤの香り』『シクロ』のトラン・アン・ユン監督最新作。ハノイに暮らす三姉妹を中心に、姉と妹にはさまれた長男、姉妹の夫や恋人たちの姿を描いていくホームドラマだ。物語は姉妹の母の命日から始まり、1ヶ月後に訪れる父の命日で終わる。映画の序盤は、家族の平和で和気藹々とした風景が次々に登場し、観ていて思わず微笑みたくなるようなシーンが多い。命日の料理をつくる三姉妹の会話シーンの、なんとも生き生きした台詞の掛け合い。何でもない話題に声を上げて笑い、料理の出来映えに満足してニッコリと微笑む。この序盤の楽しさは、小津安二郎の映画を観ているようだった。

 ところが映画は中盤から、姉妹のそれぞれが家族に隠している秘密や、各家庭の中にある不穏な情景を描いていく。カフェの女主人をしている長女スオンは、周囲の人に隠れて年下の男と密会を重ねている。スオンの夫は出張と言いながら、何年も前から愛人と別の家庭を作り、気の重い二重生活を続けている。次女カインは作家志望の夫と結婚して間もないが、夫は処女作の執筆でいきなりスランプに陥っている始末。三女リエンは売れない役者をしている兄ハイと同居しているが、家族に黙ってつき合っている恋人との関係が少しぎくしゃくしている。小津安二郎的なほのぼの路線と思われた映画は、中盤から一転して、男女の情念がメラメラと燃え上がる成瀬巳喜男的な世界に突入するのです。スオンの夫がハノイの家と山奥にある愛人宅を往復する様子なんて、『妻よ薔薇のやうに』みたいだし、スオンと年下の青年の密会という設定も成瀬的かもしれない。カインの夫がサイゴンのホテルで行きずりの女の部屋を訪ねるシーンなんて、観ていてドキドキしてしまいました。このあたりは、エドワード・ヤンの『ヤンヤン、夏の想い出』みたいな雰囲気でもある。監督がどの程度意識しているのかは別として、この映画には様々な映画の要素が詰まっている。

 主人公をひとりにせず、三姉妹とその家族にそれぞれ焦点を当てていく形式なので、下手をすると映画全体がばらばらになってしまいそうですが、この映画は画面に登場する色彩をグリーンに統一することで、映画全体の統一感を作り出している。壁の色、服の色、水の色、草花の緑、木の葉、森、室内のインテリア、すべてがグリーンだ。青に近いグリーンから黄色に近いグリーンまで、同じグリーンでもものすごく幅が広い。寒色系のグリーンは画面を冷たく見せそうだけれど、この映画ではそれが補色の肌色や赤を強く引き立てる。例えば花の赤、女たちの肌の色、カードに口紅で記されたメッセージ。

 語尾が鼻に抜けるようなベトナム語の美しさも、この映画の魅力になっていると思う。言葉を引き立てるために、スオンと青年の密会シーンでは逆に言葉の使用を制限するし、カインにはしばしば歌を歌わせたりしている。

 映画の最後は再び小津的なコメディになって映画を観人をホッとさせるのですが、それにしても三女リエンはねんね過ぎないか? 23歳という設定なんですが……。

(原題:a la verticale de l'ete)

2001年今夏公開予定 Bunkamura ル・シネマ
配給:アスミック・エース、日本ビクター
ホームページ:http://www.ge-shi.com/


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