ジターノ

2001/05/18 メディアボックス試写室
フラメンコダンサー、ホアキン・コルテスの初主演映画。
音楽をこれだけ使うなら彼にも踊らせろ! by K. Hattori


 フラメンコダンサーとして世界的に有名なホアキン・コルテスの主演映画。彼は今までにも何本も映画に出演しているが、主演映画というのはこれが初めてだという。アルトゥーロ・ペレス=レベルテの原作を、マヌエル・パラシオスという新人監督が映画化したもの。脚色は原作者と監督の共同。ペレス=レベルテはジョニー・デップ主演の『ナインスゲート』の原作者でもあり、『ジターノ』と『ナインスゲート』はプロデューサーのアントニオ・カルデナルという共通項を持っている。一方は古書をテーマにしたミステリー風味のオカルト映画、一方はジプシーの若者を主人公にした音楽たっぷりのメロドラマ。作品のテイストはまるで違う。主人公の周囲で起きている様々な出来事の裏にいくつもの謎や陰謀が見え隠れしながら、最後に本当の黒幕が姿を現すというミステリー形式。これは両者の共通点かもしれない。

 フラメンコバンドのパーカッショニストとして脚光を浴びる直前、不良警官たちのでっち上げた無実の罪で2年の受刑生活を強いられたアンドレ。刑務所を出てグラナダの町に戻ってきた彼の前には、2年前とはまったく別の世界が待っている。妻ルシアは大物音楽プロデューサー、マンフレディの愛人となっている。バンドのメンバーだった3人のうち、従兄弟のロメロは殺され、ペケは妻ロラとの関係がぎくしゃくしたまま酒浸りの自堕落な毎日を送っている。出所後は静かな生活を送ろうとしているアンドレだが、ロメロの復讐をしようとざわめく一族たちや、町を出るというロラの言葉が彼を落ち着かない気分にさせる。突然目の前に現れ、「今でもあなたが好き」と思わせぶりな台詞を残して去るルシア。マンフレディに雇われたらしい男たちが、アンドレの近辺をうろついて常に監視の目を光らせる。不良警官たちの執拗な嫌がらせと脅迫も、日に日にエスカレートしていく。

 出演俳優の初主演映画で、監督も新人というフレッシュな勢いが感じられる作品。主人公の行動目的が最初は不明確だし、刑務所にいた2年間に何が起きたのかがなかなか明らかにされないなど、脚本の構成に少し疑問もある。欠点を上げていけば、あれも駄目、ここも物足りない、そこは改善の余地あり……と、いくつだって指摘できるだろう。でもこの映画はそうした大小の欠点を、主演スターの魅力だけで乗り切ってしまえると信じ、確信犯的にデコボコしたいびつな映画を作っているようにも思える。例えばアンドレを裏切った妻ルシアを演じているのはフランスの女優レティシア・カスタで、彼女のスペイン語の台詞は明らかに吹き替え。彼女が画面に登場するたびに、僕はそれが気になってしょうがなかった。ホアキン・コルテスがいかに大スターであろうと、いかに存在感があろうと、これはやっぱり気になるよ。

 ダンサーとして有名なコルテスだが、この映画の中ではまったく踊らない。(エンドクレジットの足は彼だろうか?)しかし全編に散りばめられた音楽は素晴らしい。この音楽のおかげか、映画の後味は悪くないのだ。

(原題:Gitano)

2001年夏公開予定 シネスイッチ銀座
配給:コムストック
ホームページ:http://www.comstock.co.jp/


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