テイラー・オブ・パナマ

2001/05/14 SPE試写室
英国諜報部の不良スパイが仕立屋から聞いたホラ話が本当になる。
これはコメディにするべきだったと思うけどなぁ。 by K. Hattori


 官僚組織は身内の不祥事を隠すものだ。たとえ勤務態度や行動に多少問題のある人物がいても、人事移動など小手先の操作でこれを隠蔽しようとする。MI-6に所属する英国の諜報部員アンディ・オズナードは、女癖の悪さとギャンブル好きなどでたびたび問題を起こし、ついに中米パナマへと左遷されてしまう。運河しかない退屈な土地。そろそろ引退を考えていたオズナードは、ここで何とか一攫千金のギャンブルをしようと決意する。

 パナマの仕立屋ハリー・ペンデルの自慢は、ロンドン仕込みの確かな腕と、お客の趣味や好みに合わせてどんな話でもできる話題の幅広さが自慢のタネ。だが彼には家族にも話していない秘密があった。じつは彼が老舗の仕立屋で修行したというのは真っ赤な嘘。彼は若い頃にやくざな叔父と組んで保険金詐欺の放火事件を起こし、刑務所の中で仕立ての技術を身につけたのだ。パナマでは堅実な仕事ぶりで政財界に上客も多いペンデルだが、妻に黙って購入した農場は経営不振で銀行から自宅と店が差し押さえられる寸前になっている。そんなペンデルに、不良スパイのオズナードが下心たっぷりにすり寄ってくる。彼はペンデルに過去の経歴と借金問題をちらつかせて、彼が出入りする政財界要人もとから重要な情報を手に入れようとするのだ。だが物事はそんなにうまく行くはずがない。ペンデルは情報と引き替えの金に心を動かされ、反政府組織の陰謀や運河売却を巡る秘密取引など、荒唐無稽な作り話をオズナードに報告し始める。

 英国不良スパイのせこい野心と、パナマの人のいい仕立屋が話した他愛ない嘘が、アメリカのパナマへの軍事介入を招いてしまうという物語。この映画はどう考えてもコメディにするしかないと思うのだが、ジョン・ブアマン監督の演出ぶりは中途半端にシリアスとコメディの間を往復し、湿った花火のようにいつまでたっても火がつかない。不良スパイのオズナードを演じているのは、現在007シリーズでジェームス・ボンドを演じているピアーズ・ブロスナン。本来この役は見るからに無能そうな中年男が演じた方がハマルわけで、颯爽としたブロスナンはミスキャスト。しかしこの配役にすることで、この映画は007などスパイ映画のパロディになるわけだ。仕立屋の作り話を真に受けた英国情報部と米国国防省がいよいよパナマへの軍事侵攻を決めるくだりは、キューブリックの『博士の異常な愛情』みたいじゃないか。

 オズナードがどこまでペンデルの情報を信じていたのかが、僕にはよくわからなかった。反政府組織「静かなる抵抗」の件も含めて、彼は最初からペンデルの言葉を嘘だと知っていて大使館に報告していたのか、それともあるレベルから「これは嘘だ」と悟ったのか。それによってオズナードとペンデルの印象がずいぶん違ってくると思うのだが、この映画はそのあたりが不明確だと思う。ふたりの間では当然「嘘」として通用していたことに、英米が振り回されるということにならないと、この映画の結末は喉に刺さった骨のような違和感を残してしまう。

(原題:The Tailor of Panama)

2001年7月公開予定 日比谷みゆき座他・全国東宝洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
ホームページ:http://www.spe.co.jp/


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