クレイジー・ナッツ
早く起きてよ

2001/05/07 メディアボックス試写室
史上最低の映画監督エド・ウッドの遺作脚本を映画化。
作り手の意図はわかるけど、つまらんなぁ……。by K. Hattori

 有名監督が映画化を夢見ながら、その念願を果たすことなくこの世を去ることがある。そして時には、その監督を敬愛する映画人が、残された企画書や脚本を元に映画を作ることがある。例えばキューブリックが映画化を企画していた『A.I.』をスピルバーグが映画化するとか、黒澤明の遺作脚本を旧黒澤組のスタッフが再集結して『雨あがる』という映画を作るとかの類だ。こうした企画の場合、しばしば「あの監督が生きていたらきっとこんな風に映画を作るだろう」という発想から映画が作られることもある。その顕著な例が『雨あがる』だろう。僕は『雨あがる』をいい映画だとは思うが、結局は黒澤映画のイミテーションだとも思っている。それが悪いわけではない。作り手は言われるまでもなく、最初からそれを狙っているのだ。『雨あがる』を「黒澤そっくり」と評するのは、ある種の誉め言葉かもしれない。

 『クレイジー・ナッツ/早く起きてよ』はある有名監督の残した遺作脚本を、彼を敬愛する若い映画監督が映画化した作品だ。脚本を書いたその有名監督は世界中の映画ファンからカルト的に慕われており、ハリウッドでは伝記映画も作られている。彼の名はエドワード・ウッド・ジュニア。史上最低の映画監督エド・ウッドと言った方が、映画ファンの間では通りがいいだろう。

 この映画が監督デビュー作となるアイリス・イリオプロスは、エド・ウッド未亡人であるキャシーのもとに通い詰めてこの作品の映画化権を入手したという。「エド・ウッドの幻の脚本が映画化される!」というニュースを聞きつけて、映画ファンになじみの有名俳優たちもこぞってこのプロジェクトに参加。主人公の男を演じるのは、『タイタニック』でローズの婚約者を演じたビリー・ゼイン。他にも『バッファロー'66』のクリスティナ・リッチ、『ロスト・チルドレン』『エイリアン4』のロン・パールマン、『鳥』『マーニー』の主演女優でメラニー・グリフィスの母でもあるティッピ・ヘドレンなどが出演している。おそらく彼らのキャリアにとって何のプラスにもならないであろうこの作品に出演したのは、この映画が「エド・ウッドの脚本」だったからとしか考えられない。なんだかすごいぞエド・ウッド!

 この映画は「史上最低の映画監督エド・ウッドがこの脚本を映画化していたら……」という作品なので、もちろん映画のデキは最低です。退屈で退屈で、さらに退屈な出来映え。わざと粗雑に、いい加減に、つまらなく演出してある。だから「つまらないぞ!」という非難は、むしろこの映画にとって誉め言葉になってしまう。つまらないのは当然の話。エド・ウッド本人がこの脚本を映画化しても、どうぜ名作になんてなりっこないのです。

 しかし僕はこの映画に異議がある。エド・ウッドは才能とセンスがなかったから、一生懸命映画を作った結果として愚作駄作が出来上がってしまったのではないのか。エド・ウッド作品は「NG集」の面白さ。ヤラセのNGは、正真正銘本物のNGとは別物でしょう。

(原題:I WOKE UP EARLY THE DAY I DIED)

2001年初夏公開予定 シネセゾン渋谷
配給:シネマストリーム、eclipse film 宣伝:ポップ・プロモーション
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