案山子
KAKASHI

2001/04/23 TCC試写室
山奥の小さな村で行われる不気味な祭の正体は……。
演出が一本調子でメリハリがないのは欠点。by K. Hattori


 『リング0/バースデイ』の鶴田法男監督最新作は、伊藤潤二原作の正統派怪奇映画。宣伝ではあまり伊藤潤二色を前に押し出していないのだが、これは『富江』シリーズなどによって「伊藤潤二=ホラー」という方程式が定着しているためだとか。『案山子 KAKASHI』はホラー映画というより、やはり「怪奇映画」と呼ぶのがふさわしいように思う。怪奇映画とホラー映画の違いはどこかと問われてもちょっと困るけど、たぶん怪奇映画というのは恐怖そのものより、そこに描かれる事柄の不気味さや不思議さをクローズアップした作品なんだと思う。例えば江戸川乱歩原作の諸作品は、恐怖映画じゃないけど十分に怪奇映画と呼べるんじゃないだろうか。

 この映画には人知を越えた超常現象が登場するけれど、それが映画を観る人に「恐怖」を与えるかと問われると、必ずしもそうした効果は生み出していないと思う。むしろこの映画が描いているのは、人知を越えた超常現象を期待し待ち望む人間の心の底にある不条理だろう。映画に登場する超常現象は、外界から人間世界に降って湧いた災厄ではない。人々が「かくあれ」と心に念じた出来事が、そのまま現象として現れたものだ。この映画で描かれた現象が恐ろしいのだとすれば、それはその現象を望んだ人間の心が恐ろしいということに他ならない。

 アパートから突然姿を消した兄を捜して、たったひとりの肉親である妹が山奥の小さな村を訪ねる。そこでは死者の霊をかかしに降ろして共に暮らすという、村の外の人間には信じられない生活が営まれている。細いトンネルの向こう側にある、閉鎖的な村社会に隠された秘密が、少しずつ明らかにされていく。

 映画としては物足りない点も多い。進展が単調でどの場面も同じ調子なのは退屈だ。もう少しドラマの展開にメリハリがあると、ずっと面白くなったと思う。ショッカー演出は必要ないけれど、「何か起こるぞ」という期待感を煽るための音楽や音響効果などは、大げさすぎるぐらいに大げさにする場面があってもよかったのではないだろうか。観客側の期待や不安を十分に煽っておかないと、そこからストンと力を抜いたときの効果が小さくなってしまう。観客を焦らしたり煽ったりする場面では、演出にさらなる図々しさが必要だったと思う。

 香港との合作映画ということもあってか、村に迷い込んだ香港からの留学生という役で『ジェネックス・コップ』『レジェンド・オブ・ヒーロー/中華英雄』のグレース・イップが出演している。でもこの役って、物語の中に本当に必要なんだろうか。いろいろと撮影条件に制約があったのだろうけれど、この役はあまりにも中途半端です。『愛を乞うひと』の野波麻帆演じるヒロインは、兄に対して近親相姦的な愛情を抱いているということらしい。しかしその愛情の対象となっている兄は、最初から最後までボンヤリと虚ろな表情でまったく精彩がない。彼は亡霊となった女にも愛されている役なんだから、もう少し颯爽としたところがほしかった。

2001年6月下旬公開予定 渋谷シネパレス
配給:マイピック 宣伝:FREEMAN
ホームページ:http://www.kakashimovie.com


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