JSA

2001/04/17 東宝第1試写室
板門店で起きた北朝鮮警備兵の射殺事件の真相は?
韓国で『シュリ』を越えるヒットとなった作品。by K. Hattori


 昨年1月に日本で公開され、配収18億5千万という韓国映画としては驚異的な大ヒットを記録した韓国映画『シュリ』。この映画はもちろん本国でも『タイタニック』を凌ぐ興行成績を上げて、韓国映画としては空前の大ヒット作となっている。まさに『シュリ』旋風だ。だがよもや当分は誰も破れないであろうと思われたこの記録を、翌年にあっさり抜いてしまった映画がある。それがこの映画『JSA』だ。『シュリ』同様、南北朝鮮の対立をテーマにしたサスペンス映画である。

 『JSA』とは韓国と北朝鮮の国境にある板門店の共同警備区域(Joint Security Area)のこと。南北朝鮮の境界線をはさみ、両国の警備兵が互いに手を伸ばせば相手に触れられるぐらいの距離で対峙しているこの場所は、南北朝鮮の対立という大きな政治的緊張状態の中では台風の目のような存在。台風の目の中というのは、外部とは遮断された不気味な静けさがある。だがある晩この静寂を破って、南北両軍の警備兵が激しい銃撃戦をするという事件が起きる。境界線の北側にある監視所に残された、北朝鮮警備兵2名の射殺死体。監視所から逃げ出した韓国側兵士は、北の兵士に拉致されたため命がけで脱出したのだと主張。一方生き残った北側の兵士は、韓国兵が突然監視所に踏み込んで銃を乱射したのだと主張する。はたしてどちらの言い分が真実なのか?

 映画は両軍兵士の証言の食い違いを再現ドラマとして観客に提示し、その後事件の真実を回想シーンで描き出すという構成。古くは黒澤明の『羅生門』が同様の構成であり、最近では『戦火の勇気』がこの手法を使っていた。ミステリーの引っ張り方としては、わりと古典的なものなのだ。しかしこの映画は単なる謎解きではない。映画は大まかに三部構成になっているが、第一部で謎の提示、第二部で当事者だけが知る真実を描き、第三部では真相が明らかになった後の結末を描いている。「そこで何があったのか?」という当初提示された謎は、第二部までであらかた解決してしまうのだが、この映画の悲劇性はその後の第三部にある。すべての事情がわかり、当事者たちの心情が理解できたところで、それが何の解決にも結びつかず、かえって当事者たちを窮地に追い込んでしまうという悲劇。そこで起きていた真実は当事者以外にはまったく理解できず、また許せるものでもない。同時に当事者にとってごく自然に思えることが、それ以外の人たちにはまったく受け入れられないという現実。

 『シュリ』は朝鮮半島を舞台にした「ロミオとジュリエット」の物語だった。政治的な背景は物語の中にあるが、最後にそこから浮かび上がってくるのは男女の恋愛感情だった。だが『JSA』は違う。物語の背景にはもちろん政治があるが、そこで描かれるのは普遍的な友情と絆の物語。だがそれを最後は「政治」が引き裂いていく。政治を個人の力で克服できるかに思えたのは、単なる幻想だったのか? 個人と社会、個人と国家の不可分な結びつきについて、深く考えさせられる。

(原題:共同警備区域JSA)

2001年5月公開予定 スカラ座他・全国東宝洋画系
配給:シネカノン、アミューズピクチャーズ 宣伝:トライアル
ホームページ:http://www.jsa-movie.com


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