ラマになった王様

2001/04/13 ブエナビスタ試写室
南米の少年王クスコが魔法でラマにされてしまう。
次々飛び出すギャグに大笑い。by K. Hattori


 夏公開の大作『パール・ハーバー』と同時期に公開される、ディズニーのミュージカル・アニメーション。戦争映画で中高生以上の層を劇場に引っ張り、それ以下の年齢層はアニメでフォローしようという夏休み大作戦。上映時間1時間18分というのは、最近のディズニー・アニメの中でもかなり短く、作品そのものもまったく話題になっていないので(そりゃ『パール・ハーバー』と比べれば何だってかすむ)、あまり期待せずに試写を観たのだが、これが思いのほか面白くて大喜び。

 物語の舞台は、昔々南アメリカのどこかにあった王国。劇中で明言はされていないけれど、15〜16世紀に栄えたインカ帝国がモデルになっている。王家の跡取りとしてわがまま勝手に育った少年王クスコは、自分の気にくわない家臣を次々に窓から放り出したりクビにしたりとやりたい放題。国民のことも少しも考えず、最近は山奥の小さな村をつぶしてプール付きの別荘を造る計画に夢中になっている。ところがそんな彼が、王宮の実力者であった魔女イズマをクビにしようとしたことから彼女の怒りを買い、秘密の薬でラマに姿を変えられてしまう。王宮から放り出されたクスコは、別荘地を作ろうとしていた村の農夫パチャに助けられるのだが……。

 どんな理不尽な要求も通る王宮暮らししか知らない少年王が、不思議ないきさつで貧しい庶民生活の中に投げ出され、そこでいろいろな苦労をしながら人間にとって大切なものを学んでいくという物語。典型的な貴種流離譚だが、自己中心的な世界に住んでいた少年が、世界は必ずしも自分中心に回っているわけではないという真実を知るという物語には、いつの時代にも普遍性がある。人間は幼い頃、多かれ少なかれ自分中心に世界が回っていると考えている。やがて「自分は世界の中心ではない」ということを知るのが、人間の成長過程には絶対に必要なことなのだ。そこで味わうのは、自分が世界から切り離されてしまったという一時的な疎外感。世界は自分を必要としていないという孤独感。しかしそれを乗り越えたとき、自分自身と世界が調和した新しい世界が広がる。少年王クスコはラマにされるという危機の中で、世界を見る目が大きく変わっていく。世界は自分中心に回っているわけではないが、だからこそ自分は世界の中で精一杯周囲に目を配りながら生きていかなければならないのだという、大きなパラダイムの転換が起きるのだ。

 上映時間の短さも含め、あまり大げさに「立派な映画を作っちゃうぞ!」と気張っていないところがいい。登場人物のキャラクターは素朴で単純だが、決して平板なものにはなっていない。魔女イズマの部下をしているマッチョ男が、イズマから発散される洒落にならない残酷さをうまく中和して、物語に温かみを与えていると思う。テーマは「少年の成長」のみで、余計なエピソードが含まれていないのもいい。この構成のシンプルさが、この映画ではドラマの力強さになっている。ボリューム感はないけれど、この“軽さ”がこの映画の良さでしょう。

(原題:The Emperor's New Groove)

2001年7月14日公開予定 全国松竹東急系
配給:ブエナビスタ インターナショナル(ジャパン)
ホームページ:http://www.disney.co.jp/movies/llama/index.html


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