クレヨンしんちゃん
嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲

2001/04/10 東宝第1試写室
昭和40年代の懐かしい風景がオトナの心をかきむしる傑作。
ギャグにゲラゲラ笑い、それ以上に泣かされる。by K. Hattori


 毎年楽しみにしている『クレヨンしんちゃん』の映画版なのだが、今回はやられた! すごすぎる! 感動の嵐! 予告編ではこんなにすごい映画だと思わなかったけど、とにかく泣けます! 30代以上の人は必見!

 僕がこの映画を観始めたのはほんの数年前からだけれど、ギャグの方向性は明らかに“大人の観客”を意識している。東宝の怪獣映画で育った世代、テレビの仮面ライダーやウルトラマンで育った世代にしか通じないようなギャグを、平気で連発しているのがこの映画なのだ。そして今回は、いよいよ本格的に子供を無視して、大人にしかわからない世界を作ってしまった。いいのかこんなことして? 子供を引率して映画館に来たパパママ軍団は感激しても、この映画は子供にとって面白いか?

 映画は'70年の大阪万博会場から始まる。じつはここ、春日部に突如出現した20世紀博というテーマパークなのだ。懐かしの1970年。まだオイルショックも知らない高度経済成長真っ只中で、大人も子供も未来に明るい夢と希望を持っていた時代だ。社会は貧しくても、明日は今日より豊かになれる、未来はバラ色だという希望をみんなが共有できた。しかし現実の21世紀はどうなのか? 未来に希望を持っていた子供たちは、くたびれた大人になっている。もう一度あの日に帰りたい。未来に素直に夢が見られた、あの日々へ……。20世紀博で大人たちの郷愁を煽った秘密組織イエスタデイ・ワンス・モアは、日本中から大人たちを拉致。世界全体を「あの懐かしい時代」に戻そうとする。

 導入部がちょっともたつくように感じたが、秘密組織の首領ケンちゃんチャコちゃんが姿を現したあたりからは、じつにいい感じでラストまで突っ走る。僕はケンとチャコが昭和40年代風「夕日町商店街」を歩くあたりで、風景のあまりの懐かしさにクラクラしてきた。これはヤバイ。映画を観ながら「あの頃はよかった」「この風景が懐かしい」と思ってしまうのです。過去への郷愁と追慕が、胸を締め付けます。僕はもうこのあたりで既に涙腺が緩くなってくる。この後すっかり精神が子供に戻っていたひろしが、自分の過去を思い出す場面は涙が止まらなくなった。20世紀博から脱出しようとするひろしが、「早く出口を教えろ! 懐かしくて気が狂いそうなんだ!」と叫ぶところもいい。過去の風景に紛れてそこで暮らしていきたいという気持ちと、子供たちと一緒に未来を生きようとする気持ちに引き裂かれていく、ひろしとみさえの苦悩。この気持ちはわかるぞ!

 描かれているテーマは、たぶんスピルバーグの『フック』と同じなのだ。人間が生きるためには、未来への夢や希望が必要。でもそれを見失ってしまう大人も多い。子供に戻って永久に大人にならなければ、ずっと夢や希望を持ち続けられるのか? スピルバーグの『フック』はテーマが押しつけがましくて、不格好な失敗作だったと思う。でもそれと同じテーマも、『クレヨンしんちゃん』にかかるとかくも面白い映画になるのだ。

2001年4月21日公開予定 全国東宝系
配給:東宝
ホームページ:http://www.shinchan-movie.com


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