裸の十九才

2001/04/05 シネカノン試写室
永山則夫の連続ピストル射殺事件を実録風に映画化。
エピソードを重層的に構成した傑作。by K. Hattori


 昭和43年の10月から11月にかけて4件の殺人事件を起こした19歳の少年・永山則夫をモデルに、犯人である少年の生い立ちや事件のあらましと背景などを描いた新藤兼人監督作品。製作されたのは昭和45年だから、まだ事件の記憶が生々しく残っている頃だった。映画の中では永山の名前が別名に変えられているが、物語自体はほぼ忠実に事件をなぞっている。この連続射殺事件は当時からセンセーショナルにマスコミで報じられていたようで、この映画はそうした報道の中から犯人の少年の生い立ちや事件の様子にまつわるエピソードを拾い出し、映画的に再構成したのだろう。この映画が作られていた時点ではまだ裁判も始まったばかりで、捜査記録や公判記録などは映画作りの資料にならなかったと思う。永山則夫は事件当時未成年だったが、その責任能力や少年法の解釈、死刑制度の是非などもからんで裁判が長期化し、最終的に死刑が確定したのは昭和62年。死刑が執行されたのは平成9年になってからだった。永山則夫は拘置所や刑務所の中で膨大な手記や小説を書き、ベストセラーも出したし文学賞も受賞している。

 犯人の少年を演じているのは原田大二郎。これがデビュー作だという。少年の母親を演じているのが乙羽信子。映画はかなり複雑な構成になっている。少年が米軍基地でピストルを盗み出すところから始まり、最初の事件を起こしたところで一気に少年逮捕までジャンプ。そこからは、集団就職で上京した少年が転落して行く経緯、少年の悲惨としか言いようのない家庭環境、連続射殺事件のあらましと逮捕までのいきさつなどがパラレルに進行していく。こうして過去の出来事を複雑に折り重ねることで、凶悪事件を生み出した少年を多面的に描き出す。集団就職、新幹線、大学紛争、深夜喫茶やゴーゴークラブといった時代風俗の描写も秀逸。高度経済成長や高校大学への進学率アップといった社会情勢からすっかり切り離され、貧しい生活や悲惨な過去から逃れようと必死にあがく少年の姿は哀れですらある。学校に通いたい、勉強がしたい、人並みの豊かさを手に入れたいという少年の向上心と、ひ弱な意志と精神力しか持たない少年を堕落させていく都会の生活の対比させ、この両極の間で少年が行きつ戻りつする心の揺れ。

 社会の情勢変化の中にひとつの家族を置き、その中から生み出されたひとつの事件を抽出していくという手法は、木下惠介の『日本の悲劇』(昭和28年)を連想させる。この映画はひとつの家の中で、戦後の社会意識の変化に急速に適応してしまう子供たちと、それに適応できない母親の分裂を描いていた。『裸の十九才』は戦後の急速な社会変化に適応していく都市生活と、それと無縁の生活を甘受するしかない地方の貧しい一家の分裂を描いている。日本全体が均質化してしまった現代では想像もできないほどの格差が、昔は社会のあちこちにあったのでしょう。ひとつの事件を通して、高度経済成長期の『日本の悲劇』を描き出した傑作です。

2001年5月12日公開予定 シネマライズ
「新藤兼人からの遺言状」
主催:近代映画協会、アスミック・エースエンタテインメント 宣伝:ドラゴンフィルム
ホームページ:http://www.kindaieikyo.com/ (とりあえず)


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