家光と彦左と一心太助

2001/03/23 東映第1試写室
沢島忠監督と中村錦之助による一心太助シリーズ第4弾。
昭和36年製作。とにかく楽しめます。by K. Hattori


 昭和36年に製作された、中村錦之助主演の一心太助シリーズ4作目。監督は沢島忠。このシリーズでは大久保彦左衛門を月形龍之助が演じているのだが、この映画だけはどういうわけか進藤英太郎が彦左役で出演している。一心太助は芝居や講談や立川文庫で知られた庶民のヒーローだというが、最近はすっかり忘れられている人物かもしれない。この映画が作られた昭和36年は、映画人口がピークから下り坂になりつつあったとはいえ、まだまだ映画が娯楽の王様だった時代。東映では映画史に名前など決して残さないであろう、ひたすら明朗快活で毒にも薬にもならない娯楽時代劇を量産していた。この映画もそんなプログラムピクチャーの1本。

 しかしこの「毒にも薬にもならない娯楽時代劇」というのが、むしろ今となっては新鮮だったりする。時代劇はそもそも虚構の江戸時代を設定して、そこに作り手と観客が自由な想像を広げられるフィールドだったはずなのに、黒澤時代劇などのリアリズムが観客にもてはやされるようになると、講談ネタのご存じものを始めとする明朗娯楽時代劇は軽くみられるようになった。さしずめ一心太助などもその筆頭だろう。しかしこれが結果としては、時代劇映画というジャンルを痩せ細らせることになったような気がしてならない。明朗時代劇はテレビ時代劇の中で生き続け、今でも定番のテレビ時代劇として残っているのは「水戸黄門」「暴れん坊将軍」などの明朗路線ばかり。しかしドラマはやはり作りが安普請だ。

 その点昭和30年代の東映娯楽時代劇はセットもきちんと作ってあるし、エキストラもうじゃうじゃ登場するし、ほとんど意味もなく豪華スターがゲスト出演しているし、シンからカラミにいたるまで立ち回りがいちいちサマになっているのは見ていて惚れ惚れする。当時は東映だけで年に何十本も時代劇を作っていたから、セットや美術や衣装やエキストラの出演者も1作品で丸抱えというわけではなかった。映画を量産することで映画製作1本あたりのコストを下げていたから、毒にも薬にもならないプログラムピクチャーにこれだけの人員と資材を投下できた。こんな映画は今じゃ絶対に作れないぞ。

 映画の内容は一心太助版の「王子と乞食」。将軍のお世継ぎである家光と魚屋の一心太助は、氏素性も性格もまったく違うが双子のように瓜二つ。江戸城内では家光の弟・忠長を次期将軍に推す勢力があり、家光は暗殺の危機にさらされる。天下のご意見番・大久保彦左衛門は世継ぎ家光の身を守るため、家光と瓜二つの太助を影武者に立て、家光本人は太助のかわりに長屋暮らしを始める。こうして立場の入れ替わった太助と家光が、いろいろとトンチンカンな行動をとるところが笑いを生み出す。

 見どころは錦之助による太助と家光の一人二役。しかもこの映画では「家光の格好をした太助」と「太助の格好をした家光」を演じて、それをじつに見事に演じ分けているのは見事。歩き方や話し方などで、ふたつのキャラクターを巧みに表現しているのだ。すごい役者!

2001年5月12〜6月3日 三百人劇場
「東映黄金時代劇・沢島忠の世界」
問い合わせ:アルゴピクチャーズ、三百人劇場
ホームページ:http://www.bekkoame.ne.jp/~darts


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