シーズンチケット

2001/03/22 シネカノン試写室
サッカーの年間指定席を手に入れるため奮闘する少年たち。
『ブラス!』のマーク・ハーマン監督作品。by K. Hattori


 『ブラス!』『リトル・ヴォイス』でイギリスの貧しく苦しい庶民生活を描いたマーク・ハーマンの最新作。学校にも行かず街をぶらぶらしているジェリーとスーエルは、15歳にして既に社会のクズというレッテルを貼られている2人組。だがある日ビルの屋上でボンヤリとタバコを吸っているとき、ふたりは突然一念発起する。それは「サッカーのシーズンチケットを手に入れたい!」という、いつも無一文の彼らにとっては雲をつかむような願い事。だが一度具体的な願いさえ思いつけば、人間はそれに向かって具体的な努力を始めるもの。ふたりはゴミ拾いや廃品回収を手始めに、ありとあらゆる合法・非合法のアルバイトに苦心惨憺精を出し、何とかチケット入手に必要な金を集めようとするのだが……。

 貧しい生活の中で生きる目的を見失いかけている少年たちが、サッカーのチケット入手という具体的な目標を見つけることで、煙草や酒やドラッグから縁を切り、長らく通っていなかった学校にも通い始めるという話。しかしこれは「目的のためには手段を選ばない」という主人公たちの行動指針から生じた現象であって、彼らが自堕落な生活を「悪いことだ」と思って改心したわけではない。その証拠に彼らは合法的なアルバイトで額に汗して働くと同時に、商店で万引きした商品を換金したりもする。すべてはサッカーのため、チケットのためなのだ。

 僕自身はサッカーにとりたてて興味がないので、「チケットを何が何でも手に入れたい!」という主人公たちの気持ちはさっぱりわからないのだが、この映画そのものは面白いと思った。この映画はサッカーのチケットを巡る話を、「少年たちの夢の象徴」として描いている。貧しい家庭環境、不幸な生い立ち、学校もつまらないし、まともな仕事もありはしない、世の中の大人たちはクズばかり。そんな八方塞がりの状態の中でみつけたつかの間の夢が「シーズンチケット」なのだ。彼らはそれを手に入れることで、サッカーを見たいという気持ちも当然ある。しかしそれ以上に、チケットを手に入れることで、人間として最低限の敬意を手に入れたいという気持ちが強い。社会のゴミクズのように扱われることに慣れっこになってしまっているふたりは、チケットを手に入れることでまがりなりにも「ひとかどの人物」として扱われるようになることを期待している。

 ブラスバンドの活動を通じて産業構造の変化に伴う炭坑不況を描いたり、有名歌手の物まねをする女性の姿を通して貧しい庶民の生活を描いたマーク・ハーマン監督は、不良少年たちの生活を通して貧しい家庭の中で育つ子供たちの姿に肉薄していく。登場する少年少女たちの表情がじつに素晴らしい。特にジェリー役のクリス・ベアッティがいい。身体の大きなスーエルに向かっていつも大口を叩きながら、そのじつすごく傷つきやすい心を持っているという複雑な役柄。学校で子供の頃の体験談を語った後、じつはその話は……と真相が暴露されるあたりは、あまりにも気の毒すぎて涙が出そうになる。

(原題:PURELY BELTER)

2001年4月下旬公開予定 銀座シネ・ラ・セット、新宿シネマ・カリテ
配給:シネカノン、アミューズピクチャーズ 問い合わせ:シネカノン
公式HP:http://www.seasonticket-cinema.com


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