エコエコアザラク

2001/03/14 GAGA試写室
ひとりの少女を巡って日本中が魔女ヒステリーに陥る。
なんでこれが「エコエコアザラク」なの? by K. Hattori


 『クリスマス・イヴ』に続くGAGAと東映ビデオ製作の“Digital Cinema Project”第2弾作品。不思議な能力を持つ女子高生・黒井ミサを主人公にした人気シリーズの最新作だが、僕はこの映画に大いに不満ありだ。こんな映画になぜ『エコエコアザラク』の名を冠しているのかがわからない。この映画の作り手たちは、『エコエコアザラク』という作品のコンセプトをどう把握しているのか? 黒井ミサというヒロインのキャラクターをどう解釈しているのか? そもそも魔術や魔女という存在を、きちんと理解した上で映画を作っているのか?

 深夜の山中で起きた、少年少女5人の惨殺事件。現場の遺体はどれも木の枝や蔓に貫かれるなど、とても人間業とは思えないような状態だった。ただひとり無傷で生き残った女子高生・黒井ミサは、心因性のショックで事件前後の記憶を失っている。事件現場で発見された奇妙にねじくれたナイフ。マスコミはこの事件を儀式殺人と決めつけ、生き残った黒井ミサに現代の魔女というレッテルを貼ってセンセーショナルな報道を行う。何の証拠もないまま、黒井ミサは大量殺人の犯人として警察とマスコミから追われるようになってしまう……。

 マスコミが面白おかしく事件を報道しているうちに、日本中で魔女ヒステリーが起きるというのがこの映画の主要アイデア。『日本の黒い夏−冤罪−』で描かれた松本サリン事件もあるから、まったく無実の人間が警察の見込み捜査やマスコミの過熱報道によって血祭りに上げられてしまうケースもあるだろう。しかしそれがなぜ「魔女ヒステリー」なのか? サイコ殺人鬼による猟奇殺人やカルト宗教による儀式殺人といった可能性を最初から排除して、なぜいきなり魔女なんだ? 魔女ヒステリーは14〜18世紀ごろまで、キリスト教世界で繰り返し起こっていたものだけれど、19世紀以降はすっかり下火になって現代では死滅している。日本で魔女ヒステリーが起きたことは過去に一度もないし、日本人の持っている魔女のイメージは童話に出てくる魔法使いのお婆さんか、アニメに出てくるチャーミングな女の子程度のもの。魔女だ何だとマスコミが騒いだところで、それが日本人の恐怖心を煽ることなんてあり得ないと思う。

 そもそも原作「エコエコアザラク」の面白さは、欧米にあるオカルティズムや黒魔術の伝統が、学園青春ドラマの世界にそっくりそのまま持ち込まれるところにあったはず。ユイスマンスが19世紀末のパリを舞台に描いたのと同じ世界を、20世紀の日本で描く面白さです。魔術や黒ミサは超能力とは無縁。超常的なパワーは魔術という古来からの儀式を通じて、この世と見えない出入り口でつながっている別の世界からもたらされるものです。魔術師や魔女はパワーを引き出す触媒であって、魔術師や魔女そのものがパワーを持っているわけではない。

 ところが今回の『エコエコアザラク』は、黒井ミサ本人に不思議な能力があるかのように描く。黒井ミサが超能力者なら、それは魔術や魔女とは明らかに別物だよ。

2001年4月28日公開予定 シネマ・カリテ他 全国ロードショー
配給:ギャガ・コミュニケーションズ 配給協力・宣伝:リベロ
ホームページ:http://www.toei-video.co.jp


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