天使のくれた時間

2001/02/20 GAGA試写室
ニコラス・ケイジ主演の現代版『素晴らしき哉、人生!』。
私生活を犠牲にして得る結婚の幸せとは? by K. Hattori


 1946年に製作されたフランク・キャプラの名作『素晴らしき哉、人生!』の現代版。リメイクというわけではないが、ひとりの男がクリスマスの夜に天使に出会って別の世界に連れて行かれ、そこで自分の見失っていた人生の意味を再発見するというストーリー展開はまったく同じ。主演はニコラス・ケイジとティア・レオーニ。監督は『ランナウェイ』『ラッシュアワー』のブレット・ラトナー。ニコラス・ケイジはブリジット・フォンダと共演した『あなたに振る夢』でもキャプラ風の人情コメディに挑んでいたが、これは必ずしも成功した作品とは言えなかった。今回もキャプラ風の人情コメディだが、キャラクターの設定や物語をキャプラの名作とはまったく逆パターンにすることで、ニコラス・ケイジの現代的な魅力を存分に発揮させていると思う。

 主人公ジャック・キャンベルは、金融ビジネスの中心地ウォール街で大成功を収めたエリート・ビジネスマン。高級マンションのペントハウスに住み、フェラーリを乗り回す超リッチな生活。女にモテモテだが、特定の恋人というのはいない。クリスマス・イブの晩をひとりで過ごす生活も、もう十年以上になる。それが彼の成功の代償だが、彼自身はそれに不満を感じていない。だがクリスマスの朝に目覚めた彼は、それまでの生活とはまったく違う現実の中に自分が投げ込まれていることを知る。ベッドの横で眠るのは、13年前に彼が捨てた恋人ケイト。家の中には彼をパパと呼ぶ小さな女の子がふたり。場所はマンハッタンの高級マンションから、ニュージャージーの庶民向け住宅地になっている。慌ててマンハッタンに戻った彼は、自分のマンションや会社の警備員から無惨にも追っ払われる。この世界では、13年前に彼がケイトと結婚したことになっているのだ。

 『素晴らしき哉、人生!』の主人公は妻と子供たちに囲まれたよき家庭人だったが、この映画はまったくその逆になっている。ジャックは天使のはからいで、『素晴らしき哉、人生!』の主人公が暮らしていた世界に放り込まれてしまうのだ。孤独な企業戦士としての生活に慣れている彼にとっては、美しい妻、可愛らしい娘たち、よき隣人たちに囲まれた平凡な生活が堪えられない。リッチな独身生活を謳歌していた彼は、家庭の中で自分自身の生活が奪われたような気がしてしまう。

 話のアイデアは『素晴らしき哉、人生!』だが、描かれているのは独身男の結婚や家庭に対する恐怖だろう。結婚すれば自分の時間がなくなる。自分の自由になる空間がなくなる。お金も自由に使えなくなる。そうした犠牲に見合うだけのものが、結婚の中に果たして存在するのだろうか? 『素晴らしき哉、人生!』が作られた時代には、誰も結婚についてこんな疑問は持たなかっただろうに、現代人はいろいろと考えてしまうわけです。

 主人公が妻の誕生パーティーのビデオを見るシーンにはホロリと来た。何か大切なものを失ってしまったという主人公の気持ちに、僕が共感したからだろうか。

(原題:The Family Man)

2001年GW公開予定 日劇プラザ他 全国東宝洋画系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給 宣伝:ムービーテレビジョン


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