ヤン・シュヴァンクマイエル
Touch & Imagination
触覚と想像力
(Aプログラム)

2001/02/20 シネカノン試写室
チェコの映像作家シュヴァンクマイエルの初期短編集。
不気味でユーモラスな悪夢の世界。by K. Hattori


 チェコの映像作家ヤン・シュヴァンクマイエルの初期短編12本を上映する特集企画のAプログラムは、'64年のデビュー作から'79年までに製作された、6本の作品を上映する。以下、各作品の内容と感想。

 『J.S.バッハ−G線上の幻想』は、バッハのオルガン曲に合わせてモノクロの実写映像をモンタージュしていく10分間の作品。廃墟のような建物の錆びついた金具類やひび割れた壁などが、次々と現れては消えていく。シュヴァンクマイエル流のミュージックビデオみたいな映画だ。バッハの神々しくも妙なる音楽が、地獄の亡者の叫び声のように聞こえてくる。Bプロで上映された『アッシャー家の崩壊』に似ているかも。'65年製作。

 『シュヴァルツェヴェルト氏とエドガル氏の最後のトリック』は、'64年に製作されたシュヴァンクマイエルのデビュー作。舞台の上に登場した仮面を付けた2人の男が、次々に摩訶不思議なマジックを披露する。男たちの意地の張り合いが、最後は凄惨な殺し合いに発展するというグロテスクな内容は、Bプロで上映された『棺の家』を連想させる。無機質な機械仕掛けの人形劇という設定だが、その中に小さな甲虫が1匹紛れ込んでいるという味付けが絶妙。上映時間11分のカラー作品。

 『庭園』はアニメではなく普通の短編映画だが、全体の雰囲気はどうしようもなくシュヴァンクマイエル調。人物の表情や体の部位のクローズアップや編集のリズムが、この作家の体臭のように観客に伝わってくるらしい。田舎の家を取り囲む人間生け垣の話。17分のモノクロ映画で、'68年に製作されたもの。

 『オトラントの城』は18世紀にホレス・ウォルポールによって書かれた同名のゴシック小説を原作に、「小説に登場する古城は実在した!」と主張する学者の主張を紹介するフェイク・ドキュメンタリー作品。廃墟となっている城跡を発掘調査している学者のインタビューと現地の映像が、絵本から切り抜いたような『オトラント城』のペーパーアニメと交互に描かれる。見どころはやはりアニメ部分。甲冑を身につけた騎士たちが、剣を振るってチャンバラするシーンは見もの。'73年から'79年にかけて製作された18分のカラー作品だが、インタビュー部分はモノクロの実写になっている。

 '69年の『家での静かな一週間』は、怪しげな男が廃屋に乗り込むと、その中では日用品たちが不気味な共演を繰り広げていたという話。男の姿はモノクロで描かれ、カメラが回るジージーいう音なども含めてかなり騒々しく描かれている。だが彼がドリルで家の壁に穴をあけて中をのぞくと、そこには極彩色のサイレントアニメの世界が広がる。一種の短編オムニバスで上映時間20分。

 『ジャバウォッキー』はキャロルの「鏡の国のアリス」に出てくる怪物だそうで、この映画は後の『アリス』につながる作品だろう。子供部屋のオモチャが動くグロテスクな世界。14分。人形が人形を煮て食べるシーンはちょっと恐かったなぁ。製作は'73年。

2001年GW公開予定 シネマ・カリテ
問い合わせ:アルゴピクチャーズ、三百人劇場


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