幼なじみ

2001/02/19 TCC試写室
『マルセイユの恋』のロベール・ゲディギアン監督作品。
幼い恋人たちを守る大人たちの姿に感動。by K. Hattori


 ロベール・ゲディギアン監督が『マルセイユの恋』の翌年に撮った新作映画。舞台は前作と同じマルセイユ。幼なじみとして兄妹のように育った18歳のベベと16歳のクリムは、やがてごく自然に恋人同士になる。ベベはクリムに結婚を申し込み、家族もそれを祝福する。そうなるのがごく当たり前に思えるようなつき合いを、ベベとクリムが積み重ねてきたからだ。ところがベベは、ある日突然不当に逮捕されてしまう。ベベのことを快く思っていない警官が、彼に犯罪者の濡れ衣を着せたのだ。その直後、クリムは自分が妊娠していることを知る。

 原作はアメリカの黒人作家ジェームズ・ボールドウィンの小説「ビール・ストリートに口あらば」で、もともとはニューヨークのハーレムを舞台にした物語だったという。これをゲディギアン監督と、『マルセイユの恋』でも共同で脚本を書いたジャン=ルイ・ミレジが協力して、マルセイユを舞台にした物語へと翻案している。クリムを演じるのはこれがデビュー作となるロール・ラウスト。すごく可愛い。ベベを演じているのも本作がデビューとなるアレクサンドル・オグー。精悍な顔立ちの黒人青年。アリアンヌ・アスカリッドとジャン=ピエール・ダルッサンがクリムの両親を演じる他、ベベの父役のジェラール・メイラン、親切な家主役のジャック・ブデなど、『マルセイユの恋』のメンバーが多く出演している。テーマ曲はリストの『愛の夢・3つの夜想曲』から第3楽章「恋人よ、愛しうる限り愛せ」。世知辛い現代の物語なのに全体がファンタジックでおとぎ話めいた雰囲気に仕上がっているのは、映画の要所でかぶさる登場人物のナレーションと、この音楽の効果が大きい。

 理不尽な理由で引き裂かれて苦しむ若い恋人たちを、周囲の家族が精一杯の努力で支える物語。主人公たちの恋はあくまでもロマンチックに描かれており、家族はみんないい人たちで、物語の結末はハッピーエンド。しかしこの映画は、ただ甘ったるいだけの恋愛映画ではない。この愛すべき家族の外側には、厳しい現実が存在する。町を覆っている慢性的な不況。人種差別。町の中心部はにぎやかだが、周辺部はさびれて廃墟のような風景が広がっている。大人たちは若い頃の夢を失い、疲れ果てている。若者たちも道を見失い、定職にも就けないまま麻薬と暴力の中で自滅していく者が多い。ベベの無実の罪も嫌疑が晴れそうになく、その苛立ちとプレッシャーに苦しむ家族の様子が、さらに事態を悪化させる。ベベの母と姉は無実の罪に苦しむ息子や弟から目を背け、信仰の中に精神的な逃避をする。父親はそんな家族の様子に失望し、ベベを思って苦しみ抜く。

 この映画には明白な悪人というのがほとんど登場しない。(例外は人種差別主義者の警官ぐらい。)ほとんどの人は善良で思いやりがあり、しかし弱い存在として描かれる。弱い人間同士が片寄せあって力を合わせ、幼いカップルと新しく芽生えた命を守り抜こうとする姿は感動的。人間はこうでなくっちゃね。

(原題:A LA PLACE DU COEUR)

2001年GW公開予定 シネスイッチ銀座、関内アカデミー
配給:アスミック・エース


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