ビジターQ

2001/01/30 映画美学校試写室
三池崇史監督が描く、崩壊した家族の再生ドラマ。
遠藤憲一の芝居と内田春菊がすごい。by K. Hattori


 三池崇史監督の最新作は、シネマ下北沢で上映されるビデオ撮影の連作ラブストーリー「ラブシネマ」6部作の最後を締めくくる凶暴な愛の物語。主演は遠藤憲一、内田春菊。テレビ局でドキュメンタリー番組のディレクターをしている父親は取材中の事件がもとで仕事を干され、妻は息子の家庭内暴力に怯えながらヤク浸りの現実逃避生活。息子は母に暴力を振るいながら学校では執拗なイジメを受けており、娘は家出して生活費を稼ぐために援助交際に励む。こんなデタラメな家族のもとに、突然現れたひとりの若い男。家の中に突然現れたこの第三者の存在によって、家族は一体感を取り戻していく。

 この話、物語としてはまったくわけわかりません。わからないけれど、遠藤憲一扮する主人公山崎清の暴走ぶりがあまりにも強烈で存在感たっぷりなので、それに押し切られてどんな無茶でも許せてしまうようになる。例えば映画の冒頭に用意されているのは、ホテルの部屋で娘が父親相手に援助交際するというとんでもないエピソード。遠藤憲一が大真面目な顔で「こっちは仕事なんだから」「やめなさい」「こんなことはよくない」と言いながら(相手は実の娘だぞ。当たり前だ)、ビデオを回しながら娘の股間をまさぐるは、69状態でもつれ合うは、もうさんざんやりたい放題やりまくる。こうして感情が高まったあげく、いざ行為に及ぶとあっという間に終わってしまうという超早漏の山崎。このシーンで示されるのは、山崎の狭窄気味の論理と行動原理、家族を家族と思わないずれた感覚、興奮すると下半身の欲望が論理を凌駕して行動に突っ走る自己抑制能力の欠如、興奮のピークで自分だけが勝手に満足してしまう身勝手さ、自分の失敗を正当化する言い訳がましさ、そして金銭的なケチくささなどだ。こうした複雑なキャラクターをこの短いシーンですべて説明してしまう手腕はすごいし、それを見事に演じきってしまう遠藤憲一もすごい。

 崩壊しかかった家族が意外な闖入者のおかげで再生するという定番のストーリー展開でありながら、この映画の面白さはストーリーそのものではなく、その中で繰り広げられるアクションや描写の細部にある。家の外から窓ガラス越しに花火を次々打ち込むシーンなんて初めて見たし、その下で黙々と家族が食事をしているというシチュエーションもすごい。内田春菊の身体にクッキリと残る布団叩き型のミミズ腫れも強烈。この映画では過剰な暴力がリアリティを越えて、スラップスティックの領域にまで達している。「痛そう」「辛そう」「ひどい」と思う前に、「なんじゃこりゃ!」と笑ってしまうのだ。遠藤憲一の死姦シーンなんて、馬鹿馬鹿しさの極み。

 物語の中心は遠藤憲一の暴走ぶりにあるのだが、それと好対照になって怪物的な存在感を見せつけるのは内田春菊の母乳セックス。これには驚いた。今思い出しても笑っちゃう。こんなものを映画で見たのは初めてですし、おそらく今後もこんな映画は登場しないでしょう。これは今後カルトムービーになると見た!

2001年3月17日公開予定 シネマ・下北沢
配給:シネロケット 宣伝:カマラド


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