SEX
アナベル・チョンのこと

2001/01/25 シネカノン試写室
10時間で251人とセックスしたポルノ女優アナベル・チョン。
その型破りな人生を追うドキュメンタリー映画。by K. Hattori


 アナベル・チョン。1972年にシンガポールで生まれた中国人女性。本名はグレース・クェック。1995年、彼女は前人未踏の大記録を打ち立てて、世界中のマスコミからセンセーショナルに取りあげられる。その記録とは、一度に何人の男と連続してセックスできるかというもの。彼女は10時間で251人の男性とセックスして栄誉ある初代チャンピオンの地位につき、その時の様子はビデオ作品『The World's Biggest Gang Bang』として異例の大ヒットを記録した。この映画はそんな彼女の生い立ちや人生観、セックスについての考え、友人や家族との関係、ポルノ女優という仕事に対する彼女なりの哲学などを、膨大なインタビュー、出演作の引用、出演作のメイキング風景、彼女の生活ぶりを取材した映像などで構成したドキュメンタリー映画だ。

 ポルノ女優を主人公にしたドキュメンタリーだから、当然彼女の職場での様子、つまり男優や集められた男たちとセックスするシーンがふんだんに盛り込まれている。でもこれはポルノ映画ではなく、あくまでも人物ドキュメンタリー。主役がポルノ女優だから撮影風景は当然出てくるし、出演作も紹介される。でもそれはあくまでも彼女の一部であってすべてではない。この映画でスポットを当てているのは、むしろ彼女の私生活の部分。シンガポールという世界一お行儀のいい国で生まれ、ピアノ教師の母と学校教員の父を持つ中流家庭に何不自由なく育ち、頭が良くて教育水準も高く、海外留学までしていた彼女が、なぜポルノ女優になったのか? 彼女はバリバリのフェミニストなのだが、フェミニズムとポルノ女優という立場に矛盾を感じていないのか?

 関口浩の「知ってるつもり」的な解釈をしてしまえば、アナベル・チョンの行動やパーソナリティをいかようにでも分析することは可能だろう。抑圧からの解放。自分をレイプした男たちへの復讐。ある種の自虐嗜好。でもこの映画は賢明にも、そうしたお手軽な解釈を行わない。彼女の中にある二面性や矛盾、心の中にあるドロドロとした澱のような部分を認めながらも、そこにあえて手を突っ込んでかき回すような不躾なことはしない。それは彼女自身が行うべき作業だと、この映画の製作者たちはわきまえている。センセーショナルな映画にしようとすればいくらでもそうする要素はあるのに、この映画がそうはなっていないのはむしろいいことだ。この映画からは、作り手たちのアナベル・チョンの存在を全面的に肯定してる優しさが伝わってくる。これは彼女の職業や考え方に賛成しているという意味ではない。そうした部分に批判的な視点を持ちつつも、今目の前にいる「アナベル・チョン」を否定しない。彼女の生き方や彼女の主張を、ねじ曲げることなく正確に記録し、映画を観る人たちに伝えようとしている真摯さがある。

 アメリカで巨大産業になっているポルノ業界の内幕を記録しているという点でも、この映画はなかなかユニーク。着眼点の面白さが、この映画の魅力だと思う。

(原題:SEX The Annabel Chong Story)

2001年3月公開予定 俳優座トーキーナイト
配給:メディア・スーツ 配給協力:アットエンタテインメント 宣伝:シネマ・キャッツ


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