レクイエム・フォー・ドリーム

2001/01/23 メディアボックス試写室
『π〈パイ〉』で注目されたダーレン・アロノフスキー監督最新作。
破滅的な物語が圧倒的な迫力で迫ってくる。by K. Hattori


 モノクロの低予算SF映画『π〈パイ〉』で脚光を浴びた、ダーレン・アロノフスキー監督の新作。『π』は「予算がなくてもアイデア次第でこんなに面白いSF映画が作れるぞ」という評価のされ方をされることが多かったこともあり、僕はこの監督をSF指向の強い人なのだと勝手に考えていた。ところが彼が今回取りあげたのは、『ブルックリン最終出口』の原作者でもあるヒューバート・セルビーJr.の小説「夢へのレクイエム」。出演は『ファイト・クラブ』『17歳のカルテ』のジャレッド・レト、『エクソシスト』『この森で天使はバスを降りた』のエレン・バースティン、『秘密の絆』『ダークシティ』のジェニファー・コネリー、『最終絶叫計画』のマーロン・ウェイアンズなど。『π』はモノクロだったが、今回はカラー映画だ。

 母親サラの暮らすアパートからテレビを持ち出してはたたき売って麻薬を買う金を作っていたハリーは、親友のタイロンとふたりで麻薬の売人になり、あっという間に濡れ手に粟の大儲け。ハリーの夢は恋人マリオンとふたりで小さなコーヒーショップを開くこと。麻薬の金はその開業資金だ。タイロンは儲けた金で一生分の麻薬を手に入れて、あとはあくせくせずに遊んで暮らそうと考える。同じ頃ハリーの母サラのもとに、「あなたがテレビ出演者に選ばれました」という電話がかかってくる。彼女はテレビ出演に備えて急激なダイエットを始める。

 この映画で描かれているのは、人間なら誰しも心の中に抱えている孤独への恐怖。人はそれを埋め合わせるかのように、恋愛や食べ物や麻薬や金を求める。孤独が埋まれば、それで世の中はすべてうまく行くような気がする。ダイエットを始めたサラは、近所の友人たちの間で一躍人気者になる。麻薬の商売がうまく行き始めれば、ハリーやタイロンと恋人たちの関係もじつに円満だ。息子は母親に親孝行しようと考える。母親はそんな息子の気遣いに感動して涙ぐむ。恋人たちは互いの夢を語り合い、身も心も一体になったような太い絆を実感する。だがそれらの幸福も一皮むけば、そこにはぞっとするような孤独が待ちかまえているのだ。人間はさまざまな幸福に取り囲まれているようで、わずかにその一画が崩れれば全体が崩壊するような脆さの中で暮らしている。この映画ではそれが薬の禁断症状や幻覚として描かれているけれど、恋が破れただけで(それはそれで大問題だけれど)、世界が終わってしまったような気分を味わった経験を持つ人は多いだろう。ひとつがダメになれば、すべてがダメになる。人間はなんてひ弱な存在なんだろうか。

 俳優の芝居にぞっとするような迫力がある。げっそりと痩せこけたジャレッド・レト。悲しげに微笑みながら狂っていくエレン・バースティン。人間としての尊厳をかなぐり捨てながら、念願の麻薬を手にして微笑むジェニファー・コネリー。映像の演出も確かにすごいけれど、この監督は芝居もしっかり演出できる人なのだ。救いのない話だけれど、後味が悪くないのが不思議。

(原題:Requiem for a dream)

2001年夏公開予定 シネセゾン渋谷
配給・宣伝:ザナドゥー


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